関西や中京圏ではお馴染みの転換クロスシートであるが、関東でも京急だけは一部の車両に取り入れられている。他の鉄道会社の場合、進行方向に向いて座るタイプはほぼすべてが有料列車である。
特に混雑がどこも激しい首都圏ではロングシートが主流となっている。朝ラッシュ時は積み残しが日常茶飯事なのが東京近郊の鉄道網ならではの特徴であるが、1度にできるだけたくさんの乗客が乗れるように輸送力の強化を重視しているケースが多い。
そもそも転換クロスシートを取り入れる理由とは?
一方、関西や名古屋地区では輸送力の強化よりも鉄道としてのサービスの質の向上を重視しているところが多い。その一例が転換クロスシートの導入というわけだ。
理由としては、そもそもの人口が東京圏と比べて少ないことに加えて、JRと私鉄が並行して競合している構図になっているところが多いのがあげられる。乗客を奪い合うためにただ電車を動かすだけでなく、速達性や快適性にも力を入れなければならないのが関西や中京地方の事情といえる。
首都圏の場合、沿線の人口が多いことに加えて、複数の鉄道会社の線路が並行して伸びているところが少ない。ほとんどの鉄道会社は自社の地域を独占している状態にある。他社間の競争が薄いため、転換クロスシートのような快適性は後回しとなっているのだ。
なぜ京急だけ転換クロスシート
ただし、京急については関東の私鉄の例外といえる存在になっている。品川~横浜はJR東海道線と完全に並行して走っている。都心から横浜へのアクセス網という点では、JR湘南新宿ラインや東急東横線とも競合していると判断できる。
京急の場合、JRに比べると所要時間でも運賃の安さでも不利の状態にある。JR東海道線の普通電車の方が京急の快特よりも早い。運賃も品川~横浜はJRの方が10円だが安い。
しかも、横浜駅から先の三浦半島の区間もJR横須賀線と並行する。こちらもまた競合状態となっている。
京急にとって打てる手段は快適性くらいなのは確かだ。そこで導入したのが「転換クロスシート」というわけだ。横向きに座るよりも縦向きに座るほうが乗り心地は良い。
ラッシュ時は混雑するとはいえ、それ以外の時間帯であれば乗客の数は少ない。JR東海道線と沿線の鉄道利用者を分け合う以上、快適性を重視して京急利用者を獲得しようという狙いがある。
事情は関西や中京と同じといっても過言ではない。私鉄と競合しているために、転換クロスシートをはじめとするサービスの面を重視しているのである。