阪神電鉄の梅田~元町間の最速列車は「特急」である。乗車券・定期券のみで乗れる無料の電車で、各駅停車や急行、快速急行と同じように追加料金はかからない。すべて基本運賃で乗れる。
特急といえば、JRや近鉄のように乗車券のほかに特急券が必要になるイメージが強いかもしれいない。追加的な料金が発生し、座席が指定席になっていると想像する人も少なくないだろう。
関西圏の私鉄では、特急がすべてまたは一部が有料列車となっているのは近鉄と南海電鉄のみである。阪神電鉄、山陽電鉄、阪急電鉄、京阪電鉄では無料になっている。
なぜ、阪神電鉄では特急は無料となっているのか。通過駅が多く設定されている種別が有料列車となっていない理由について見てみよう。
所要時間の競争が激しい
阪神本線は、全線に渡ってJRと阪急神戸線と競合する関係にある。JRでは新快速・快速が速達列車として走っている。阪急は、阪神と同じように特急が速達列車となっている。
他社に所要時間で対抗するために、阪神本線でも特急を運転することで、急行などの準速達列車では対応できないところを補っている。
有料列車にしてしまうと、通勤通学客はそれらを避けることとなる。だが、急行以下の電車は停車駅が多く、所要時間が長い。
これだと、ある程度の距離を移動する乗客がJR西日本や阪急神戸線へ流れてしまう。そうなると、阪神電鉄の収益性は悪くなり、最悪の場合は赤字に陥ってしまう可能性も否定できなくなる。
少しでも多くの鉄道利用者を阪神側に引き込むために、特急という最速列車を追加料金なしで乗れるようにしているというわけだ。
なお、直通先の山陽電鉄線内についても、「特急」はすべて無料列車となっている。運賃の仕組みは阪神電鉄と同じである。
JR・阪急よりも遅い
しかし、阪神電車の特急は他社の優等列車には大きく劣っている。所要時間では、大阪~神戸間では最下位である。
通常のダイヤでの所要時間は、阪神の特急が32分程度かかる。一方のJR線では、新快速で20分、快速で27分となっている。阪急神戸線も、特急は27分で梅田~神戸三宮間を結ぶ。
阪神電車の場合、名前こそは特急となっているが、実質的には標準的な快速電車といえる。速達性の低い路線というのが現状だろう。
停車駅も決して特段に少ないわけではない。主要な駅にだけ止まるという点には変わらないものの、競合している他社よりは多い。
所要時間の面で不利な環境に置かれているため、特急の有料化は到底無理か話といえるだろう。
なお、阪神電鉄の特急は阪急と同じように戦前から運転されている種別である。昔から速達サービスのある電車として走ってきた。
しかし、近年は国鉄がJRに民営化されたことなどにより、JR側が速達サービスを力を入れるようになり、相対的に阪神電鉄の遅さが目立ってきてしまった。速達性と安さの競争が激しい条件に置かれているのは間違いない。