駅のホームドアの設置にかかる費用は1つあたり約10億円という値段が目安となっている。これは10両編成分のコストであるため、1面2線の上下線に整備するとなると20億円くらい要するということになる。
具体的な値段はプラットフォーム補強工事の有無や編成数によって前後してくる。JR山手線の場合は全線への設置で約550億円と見積もられていることから、1駅分では約10億円と計算できる。
ホームドアの設置工事が数ある鉄道会社であまり積極的に進められない理由はこのコストの高さになると考えてよい。車両のドアの位置がバラバラであるからといった要因もあることにはあるが、それでも最大の理由は費用が億単位でかかる点にある。
何でそんなに費用が高額なのか?
ホームドア単体であれば決して10億円まではいかない。鉄の扉だけであれば1駅でも1億円はしないだろう。
値段が張るのはホームドアの稼働のために必要な設備の費用である。ホームドアの開け閉めは車両のドアと連動させる必要があったり、ホームドアと車両の間に人が挟まった時に検知するシステムが必要となる。
そうした設備は決して安いものではない。高い技術力も求められるため、開発に膨大なコストがかかっている。どうしても導入時の価格も高くなってしまうわけだ。
さらに、既存の駅に新たにホームドアを設置する場合、そのまま駅ホームの上に作ってしまうと重さに耐えきれなくなって崩れてしまう可能性が出てくる。そこで補強工事も行わなければならなくなる。
この工事にもまた結構な費用がかかる。ホームドアの設置といったら、駅構内の補強工事も同時に実施しなければならないのがほとんどのケースであるため、結果的に合計で1つだけで10億円くらいかかるのである。
もちろん、これらの費用を負担するのは運行する鉄道会社である。山手線であればJR東日本である。どうしてもあまり積極的には進められないというわけだ。
TASC(定位置停止装置)が必要!
ところで、ホームドアができると従来よりもより正確な位置に電車が停止する必要が出てくる。電車のドアとホームドアの開口部が一致しなければ乗客が乗り降りできない。
しかし運転士の運転技術ではどうしても対処できないこともある。そこで必要となるのが「TASC(定位置停止装置)」とよいうシステムである。
簡単に言えば自動ブレーキのことである。次の停車駅に接近すると電車は自動的にブレーキがかかり、そのまま自動で停車位置でぴったり止まってくれる仕組みになっている。
手動だとずれてしまう可能性が高いため、それを補うシステムというわけだ。ただ、これにも高いコストがかかる。線路上にセンサーを取り付けたり車両に設備を取り付ける工事が必要となる。しかも路線内を走るすべての車両に取り付けることになる。
これによって、ホームドアの設置費用がますます高額になる。ホームドアが整備されている鉄道路線が都心分の一部だけにとどまっている理由が理解できるだろう。