雨の日は電車に遅延が生じやすい傾向が見られる。台風や強風、大雨などの異常な天気ではない普通一般の雨天時であってもちょっとしたダイヤの乱れが起こりやすい。
これには3つの理由が存在する。鉄道という交通手段の性質から乗客の行動までと、原因の所在は様々。
地上を走るJR・私鉄のみならず、地下鉄でさえも同じ傾向が一部見られる。
目次
雨天時の鉄道の遅延の要因
遅延の原因 | 影響度 | 詳細な内容 |
---|---|---|
加速・減速操作の慎重化 | ★★ | 鉄輪が滑りやすくなるため、加速・原則性能が低下し、より慎重な運転を行うため |
乗降時間の延長 | ★★★★★ | 誰もがホーム上に屋根が付いている部分から乗車することで特定の車両に混雑が集中し、乗降時間の延長が起こる |
利用者数が増加 | ★★★ | 晴れの日は出勤時刻ギリギリに移動する人が増える 自転車で移動するが雨の日は鉄道に切り替えるという人も |
雨天時の鉄道が遅れやすくなる理由は上記の3つ。
各項目が実際に延着にどれくらい影響しているのかも5段階で評価。
いずれも特定の路線を対象とした結果ではなく、全国の大部分の路線に当てはまる共通点。
電車の遅延は雨の日だけに限ったことではなく、天候に関係なく起こる。それでも、雨の日に限れば数分の小規模な遅れは生じやすい。
<参考資料:東京圏の鉄道路線の遅延「見える化」(PDF/国土交通省より)>
直接的には「乗降時間超過」が多いと国土交通省も公表。雨の日の遅れも間接的にはここに入る。
加速・減速操作の慎重化
雨の日は線路が濡れることで電車の加速・減速性能が低下する。
晴れの日では加速性能もブレーキ性能も最大限まで活用できる。摩擦係数が大きいためだ。
雨の日は線路が水で濡れることにより、摩擦係数が乾燥している状態よりも小さくなる。ここで加速・減速の操作に慎重さが求められる。
フル加速ができない
まずは加速性能。鉄道の車輪は鉄製のため、線路が濡れていると加速の際には空転しやすい。
自動車のタイヤはゴム製ということで、雨の日であっても空転することはほとんどない。しかし、鉄道は摩擦係数が小さい鉄輪。雨の日だと摩擦力の低下が大きい。
モーターの力で車輪を回転させる動力で動くものの、線路が濡れることで摩擦係数が下がる。これによってモーターの動力が強すぎて車輪が空転してしまう。
空転を少し抑えるために力行(アクセルのこと)の段階を弱める手段を取るものの、今度は加速度が落ちる。
最高速度は路線や列車ごとに決まっているため、加速性能が落ちることで駅間の所要時間が延びる。
ブレーキの効きが悪い
次に減速の際のブレーキ性能。
加速時と同じく、雨の日だとブレーキの効きも悪くなる。
あまり強いブレーキをかけると、濡れた線路上では車輪がロックしてしまって速度が落ちない状態になる。
車輪がロックすると電車が線路を滑っている状態になるため、思うように減速するのは不可能。
最近の鉄道車両では自動車と同じく車輪がブレーキ時にロックしないためのABSの装置が付いているものも登場してきているが、降水によりブレーキ性能が落ちることには変わりない。
これを避けるために、通常ブレーキをかけ始める地点よりも手前からブレーキを緩めに掛けることになる。
一方でこうすると、今度は高速走行できる距離と時間が短くなる。そして、駅間の所要時間が晴れの日よりも長くなってしまう。
地面との摩擦係数が小さいことで、電車はより少ないエネルギーで乗客を輸送できる。「環境にやさしい乗り物」として鉄道が注目されている理由の1つでもある。
しかし、滑りやすい雨の日で遅れやすくなるのは一種の欠点と言える。
乗降時間の延長(停車時間の超過)
雨の日は乗客の電車の乗り降りにも時間が長くかかりやすい。
時刻表上の停車時間が30秒で、晴れの日は実際の乗客の乗り降りにかかる所要時間が20秒ほどであったとしても、雨が降ると40秒に拡大するようなことがある。
小規模な遅延のほとんどは停車時間の超過による遅れ。雨の日の電車の遅延の最大の敵ともいえる存在。
ホーム上に屋根がない車両からの乗車を避ける
まず、ホーム上の構造に問題がある事例が目立つ。
大都市部の駅ホームには雨が降っても待っている人達が濡れないよう屋根が付いている。しかし、列車停止位置を見て先頭から最後尾まで屋根がある駅は少ない。
列車が駅で停車した状態で先頭付近と最後尾付近には屋根がない駅が郊外では特に多い。
これにより、雨が降っている状態では屋根が付いている部分の車両のドアから乗ろうとする人が増える。
基本的に屋根があるのは車両の中央部付近になりため、中央部付近のドアに乗降客が集中する。
この結果、電車の乗降時間が通常よりも長くかかりすぎて停車時間の超過へとつながる。
傘の存在も
雨の日は乗客たちの持ち物も多くなる。晴れの日との最大の違いは「傘」の有無。雨の日はほとんどの人が傘を電車内に持ち込む。
この傘の分の体積が増えることで、車両1両当たりに乗れる人数も若干ながら減る。
その結果として混雑が激しくなり、ドア付近で人口密度が高くなると乗降時間が長くなる。
さらに、車内でも乗客が奥へ詰めるのをためらう状況にもなりやすい。
雨が降っているということは電車内に持ち込んだ傘も濡れているということ。しかし自分自身は濡れたくないため、他人または自分の傘に触れないように無意識に行動。
結果として乗降時間の延長が起きやすくなり、停車時間の超過へと至る。
満員電車を中心にこのように傘の存在が電車の遅延に影響しやすい。
利用者数が増加
雨の人晴れの日の利用者数を比較すると、通勤ラッシュの時間帯では雨の日の方が多い。
人々の移動する時間帯の分散が晴れの日よりも雨の日の方が起きにくい。
また、天気が良い日が自転車で移動するところを雨の日は電車に切り替える人も大都市部では少なくない。
特定の時間帯での利用者数が多くなることで、混雑激化によって電車が遅れる。
朝が遅い人が増加
晴れの日は早起きに苦がない場合でも、雨の日だと苦痛を感じるなんて経験をしたことがないだろうか。
これは不特定多数の人に当てはまること。
これにより、出勤や登校の時間も雨だと晴れの日よりも遅くなりやすい。始業時刻や授業開始時刻ギリギリに電車で移動する人たちが急増するのが雨天時。
8~9時までの時間帯に通勤通学客が大幅に集中しやすくなり、これが電車の混雑悪化につながる。
混雑がひどくなれば乗降時間も長くなり、途中駅での停車時間の超過が起きやすくなる。
このような悪循環から電車の遅延へと至る。
自転車通勤の人たちが鉄道へ殺到
天気が良い日であれば自転車で通勤通学する人たちでも、雨の日は鉄道を利用するというケースが結構目立つ。
そもそも鉄道路線がない地域ではこの手段が使えないものの、電車という移動手段が選択肢にある場合は雨の日だけ電車を使うことが可能。
一方で雨が降っているからといって職場や学校へ出勤または登校しないという選択肢はあり得ない。
大学のように休みやすい例は除き、ふつうの雨天が理由で休みになる仕事や教育機関はない。
これにより、晴れの日よりも雨の日の要が鉄道利用者数が増加。
直接的には混雑の激化が理由だが、間接的には自転車から鉄道へ切り替える行動が電車の遅延の理由の1つになる。