鉄道の複々線化による効果はどれくらいあるのか。実際に工事が完了して供用開始された事例から前と後での混雑状況の変化、所要時間、遅延の頻度をもとに分析。
近年は既存路線の通勤ラッシュの混雑緩和のために列車の本数増加を狙って複々線化事業を行うケースがある。
混雑緩和の抜本的な方法は列車の運転本数を増やすことである。しかし、線路容量には限界がある。線路を増やすことが最良の解決策になる。それこそが「複々線化」だ。
複々線化によるメリット
複々線化によるメリットとは、具体的には以下が該当する。
<複々線化で獲得できる効果>
線路容量の引き上げ:1時間当たり運転できる列車の本数の限界がUP。
列車本数の増加:線路容量が倍増するため、運転できる列車の本数を大幅に増やせる。
混雑緩和:供給力(本数)増加で通勤ラッシュの混雑が以前より緩和。
所要時間の短縮:緩急分離運転によって徐行運転・通過待ちが不要になる。
これら4つの要点が複々線化を行うことによって単なる複線に対する効果である。
鉄道の複々線でもその種類がいくつがある。実施前と後での違いがどれくらいになるかは、その種類によって異なってくる。
緩急分離運転と系統分離運転では前者の方が効果が大きい一方、後者はやや限定的になりやすい。
それでも線路が倍増することで、少なくともデメリットには働かないのは確か。混雑緩和も路線全体で見れば少なからず緩和される。
路線ごとの複々線化による効果
複々線が供用されている主な路線の効果は以下のようになる。
路線 | 複々線化による効果 |
首都圏JRの「通勤五方面作戦」 | 郊外へ都心から放射状に延びる5路線の複々線化事業「通勤五方面作戦」は1960年代に実施。輸送力が改善するも東京一極集中でその後も混雑率200%を近年まで記録。 |
小田急小田原線 | 大幅な列車の運転本数の増加(27→36本/時)。通過駅が多い快速急行を朝ラッシュにも運転開始。各停は大幅に混雑緩和するも、優等列車は依然として超満員。 |
東急田園都市線 | 二子玉川~溝の口間で田園都市線と大井町線で実質複々線化。渋谷~二子玉川はそのままのため混雑緩和には至らず。 |
西武池袋線 | 練馬~石神井公園で複々線化。各停の本数増により混雑緩和するも、優等列車は依然として超満員電。積み残しも発生するほど。 |
東武東上線 | 和光市~志木で複々線化。地下鉄副都心線・有楽町線への分散が実現するも、優等列車はやはり超満員。 |
東武伊勢崎線(スカイツリーライン) | 2001年に北千住~北越谷が複線化で事業完了。優等列車は満員になるが、首都圏の中ではそれでも緩やか。 |
京阪神(関西)のJR東海道・山陽本線 | 緩急分離運転によって速達性が高い「新快速」を運転。並行私鉄と所要時間で優位に立つ。混雑は問題視されず。 |
京阪本線 | 天満橋駅 – 寝屋川信号所が複々線。線路容量に余裕が出たことで特急や快速特急を運転。朝ラッシュの混雑緩和も実現。 |
私鉄でも首都圏は小田急、東急田園都市線、西武池袋線、東武東上線と伊勢崎線(スカイツリーライン)が該当する。
関西は数が少ないが京阪本線が例に挙げられる。
戦前からすでに複々線となっていた路線もある。
首都圏のJR・私鉄
首都圏の鉄道路線の場合、JR・私鉄問わず複々線化が完了しても混雑緩和は限定的なものになっているところが目立つ。
各駅停車の混み具合は複線時代と複々線化後では違いが感じるほどでその恩恵を受けていると感じる。
一方の快速や急行といった通過駅がある優等列車の場合は、前と後での混雑状況はほとんど変わっていないところが多い。
多少は改善されたとしても、ドア付近では乗客同士が押し合って乗るような超満員電車であることには変わりない姿が見られる。
さらに、複々線化をきっかけとして速達列車に混雑が偏っているとも感じる。快速や急行などに乗客が集中していることで混雑緩和につながっていないと判断できる。
所要時間や運転本数の増加という面では良い効果が出ている。しかし、朝ラッシュの混雑に限れば、あくまでも各駅停車のみといっても過言ではない。
JR各線に関しては1960年代に「通勤五方面作戦」として東海道本線・総武本線・常磐線・東北本線・中央本線にて複々線化が実施された。これにより電車の本数が増加し、前と後では確かに混雑は緩和された。
しかし、それでもなお輸送力不足の状態が続き、平成後期まで混雑率が200%近くにまで達していた。
東京一極集中によって首都圏の人口が増加し、複々線化ができても利用者数も増加して混雑するという構図になりやすいのは首都圏ならではの特徴でもある。近年は改善する傾向にあるものの、それでも解消といえるほどではない。
関西のJR・私鉄
関西のの鉄道路線の場合、複々線が供用されている路線といえばJR東海道本線・山陽本線の草津~西明石間、京阪本線の天満橋~寝屋川に限られる。
複々線化による効果といえば、混雑緩和の部分もあるものの、それ以上に速達列車の充実化という点が大きい。
戦前からすでに複々線化が実現できている京阪神地区のJR東海道本線・山陽本線(琵琶湖線・京都線・神戸線)では外側を通る急行線と内側の緩行線で緩急分離運転をしている。
関西地区では最も利用者数が多い路線だが、列車本数も多く運転できていることもあって、混雑状況は比較的緩やか。混雑率ランキングでも関西トップクラスとまではいかない。
一方で「新快速」という速達性を最重視さいた種別をほぼ終日運転しているのも特徴。所要時間では並行する私鉄各線に対して優位に立っている。これも複々線によって優等列車を運転できる余裕があることによるもの。
私鉄でも京阪本線では1980年に大阪市内中心部から寝屋川市駅までの複々線化事業が完了した。すべての種別で混雑緩和が実現できたこともあるが、同じように優等列車の充実化にも一役買った。
通勤ラッシュの時間帯でも通過駅が多い特急や快速特急を運転し、速達性が重視された列車が運転されている。
このように、関西地区は複々線にとって混雑緩和に加えて優等列車の充実化という効果が出ている。