北陸新幹線の最速列車かがやき号は全車指定席である。自由席は一切ない。なぜ全席をあえて指定席に設定しているのか、その理由について考察。
東京~金沢間の停車駅は、上野・大宮・長野・富山に絞られている。一方の、停車駅が多い「はくたか」と「あさま」、「つるぎ」には自由席がある。1~4号車は自由席となっていて、指定席と比べて特急券の料金が安い。
なぜ、停車駅が少ないかがやき号だけがすべて指定席となっていて、割安な料金で乗れる自由席がないのか。予算を節約したい人にとっては、このような疑問を感じるだろう。
かがやき号に自由席がない理由
主な背景 | 詳細な内容 |
長距離輸送がメイン | かがやき号は北陸新幹線の最速達型。指定席を選ぶ人が多い長距離輸送が中心。より指定席利用者が多く乗れるようにすることが1つの目的。 |
採算性が良い | 指定席特急券は自由席特急券よりも割高なため、JR東日本・JR西日本にとって採算の都合が良い。自由席を設定するよりも儲かる。 |
「はくたか」「あさま」との差別化 | 東京~金沢ではくたか号と利用者層を差別化するため。自由席を設けるとかがやき号に乗客が殺到する点を考慮し、混雑緩和のために全車指定席にしている。 |
かがやき号が登場したのは2015年の北陸新幹線の金沢駅延伸で登場した新種別。それまでの長野新幹線の時代にはなかった列車。
参照:新幹線の路線ごとの「全車指定席」を導入の有無! それらの背景も
かがやき号は東京~金沢を通しで走る列車である。その上、停車駅が大規模な主要駅に限られている。ターゲット層は完全に北陸地方と東京・大宮を移動する人達なのは明確。
はくたか号やあさま号とは性質的に違うことが、全車指定席に踏み切っている理由。
全車指定席の新幹線には他にもある。ただし、いずれも速達型の種別かつJR東日本が主体の列車のみ。
長距離利用者を最優先させるため
各列車の需要の動向
- かがやき:東京~長野、富山、金沢の長距離利用者が中心
- はくたか:長野~金沢間の中小規模駅を乗り降りする利用者(中距離利用者)が中心
- あさま:高崎~長野の近距離利用者が中心
かがやき号のターゲットは長距離利用者である。具体的には、首都圏から北陸地方まで移動する人を客層に設定している。
自由席があると、どの列車にのっても値段が同じになるため、近距離利用者でも乗る人が多くなる。首都圏から長野県内までしか乗らない人も乗る。
そうなると、富山や金沢まで乗る人がかがやき号に乗りたくても座れないという事態になりやすくなる。
近中距離利用者は、できるだけ停車駅が多い列車に誘導させるために、北陸新幹線では最速のかがやき号のみ全車指定席としているようだ。
また、完全な指定席であれば100%確実に座れる。途中駅から乗った場合でも、着席サービスを提供できる。
自由席があれば、その分指定席の数が減ってしまい、座席指定にしたくてもできない人が出てくることにつながりやすくなる。
>>【新幹線】かがやき号の混雑状況を時間帯ごとに調査! いつ満席に?
自由席だと始発駅から乗る人にとっては座席を確保しやすいが、途中駅だと座れないという格差が生じる。途中駅から乗る人には不評になるのは避けられない。
限られた運行本数の中で、可能な限り着席サービスを提供するためには、自由席なしにするのが好ましいというわけだ。
採算性が良い
<特急券による収入事情>
自由席特急券と指定席特急券の料金差額=530円
→JRにとっては1人当たり+530円多く収益が入る
指定席特急券は自由席特急券よりも値段そのものが割高となっている。その差額は原則530円。
乗客にとっては負担する料金が高い分、金銭的な痛手が大きいというデメリットになる。
一方、鉄道事業者にとっては収益高が増えるためメリットとなって都合が良い。
北陸新幹線は特に「整備新幹線」として建設されてここ最近になって開業した新規路線。線路建設の借金の負担(鉄道運輸機構への線路使用料の支払い)が残っている。
少しでも収益を増やすことが課題となっている中、北陸新幹線のうち長野駅以北まで行く人たちが利用する列車であるかがやき号を全車指定席にすることで旅客収入を多くできているのは確か。
かがやき号は乗降客数が多い主要駅にしか停車しないこともあり、需要はかなり大きい。多少高くても乗客が減らない構図にもなっているため、全車指定席に容易にできる環境も整っている。
もし自由席の設定を行うと、特急料金も「自由席特急券」の料金分しか入ってこない。
指定席特急券よりも割安なため、1人当たりの旅客収入が減ってしまう。これを防ぐためにも全席指定が有効な対策なのは確か。
はくたか号・あさま号との差別化
各列車への理想的なふるい分け
- かがやき…長距離利用者×急いでいる人
- はくたか…中長距離利用者×速達性を重視していない人
- あさま…長野駅以東の近距離利用者
速達型のかがやき号で自由席を設定すると、東京~長野・富山・金沢間を行き来する人がこれらに殺到してしまう。
はくたか号やあさま号は停車駅が多いことで所要時間も長くなる。
このため、首都圏と長野駅以北の地域(北陸地方)を行き来する人はなるべくかがやき号に乗るのを希望する。
かがやき号に乗客が集中してしまうと、かがやき号は満席・はくたか号は空席多数残るという状態になってしまう。
さらにはあさま号の運転がない長野駅から北側の乗客が乗り切れなくなってしまうという問題が生じる。
しかもかがやき号の本数は少なく、運転していない時間帯もある。
その一方で、はくたか号・あさま号では空席が目立つこととなり、輸送効率が悪くなってしまう。
混雑差を防ぐために、あえてかがやき号を自由席無しの「全車指定席」にしている。
はくたか、あさま、つるぎは?
停車駅の多いはくたか・あさま・つるぎに関しては、停車駅が多いため、長距離利用者にとってはあまり都合が良くはない。
仮に、かがやき号と同じ値段だとすると、ほとんどの人は停車駅が多いダイヤの列車を避けて速達型を狙うだろう。
逆にどの列車にも自由席があるとすると、かがやき号だけが混雑して、それ以外は空席が多い状態となる可能性が大きい。
やや長い距離を移動する乗客にも、停車駅が多い列車に乗るメリットを与えることが、はくたか・あさま・つるぎに自由席が設けられている理由と考えるのは合理的。
所要時間が余計にかかるとしても、運賃が安ければお金を節約できるというメリットが生じる。
「早く移動したい」という人と、「時間はかかっても安く済ませたい」という人で、各列車の乗車率が上手に均等になる。
こうした点から、準速達型のはくたか号と、各駅停車型のあさま号、つるぎ号の1~4号車は自由席となっているのだ。