朝と夕方・夜の通勤ラッシュの時間の東京の満員電車は異常なほどの人混みになる。
主な原因は国内の人口の東京一極集中もあるが、何よりも誰もが一斉に同じ時間帯に通勤通学することにある。時差出勤などのフレックスタイム制が日本は特に消極的で、「みんな同じ」であることが求められる社会が遠因にある。
満員電車の問題は長らく課題とされてきているものの、一向に問題が解消される気配がないのはこのため。鉄道事業者や政府などの取り組みでは限界が見えるのも確か。
目次
異常なレベルの満員電車の主要な理由
主な要因 | 詳しい内容 | 影響度 |
---|---|---|
東京一極集中 | 首都東京が経済の唯一の中心地のため、人口流入が絶えないことで鉄道利用者数が増加。 | ★★★★ |
時差通勤に社会全体が消極的 | どこの会社も出社時間が8~9時。時差出勤に消極的な風潮が残ることで通勤ラッシュに人々の移動が一点集中。 | ★★★★★ |
在宅ワークの欠如 | 出勤してこそ仕事とみなされる風潮により、在宅でもできる仕事をする人も移動することで余計に混雑激化。 | ★★★★ |
都心回帰 | 首都圏でも東京23区に拠点を持ちたい企業が多数。都心へ電車で毎朝移動する人もその分増加。 | ★★★ |
運行本数が少ない | 複々線区間の欠如で輸送力不足のために供給が需要に追い付いていない路線の存在。 | ★★★ |
参考資料:国土交通省の混雑率等の統計情報
「満員電車」そのものは東京のみならず、大阪・名古屋・福岡をはじめとする大都市圏でも地方都市でも見られる光景。
しかし、東京の朝ラッシュは異常といえるほどの混み具合に達する。
混雑率200%といった表現がされるが、要するに電車内で乗客同士が押し合う状態になるレベルのことを意味する。
7時30分から9時00分ごろの朝ラッシュとなれば、ほとんどの路線にて電車内に空き空間が存在しないほどの満員電車になる。
>>【東京編】通勤ラッシュの時間帯は何時!? 朝と夕方のピークを分析
そんな状態の原因は東京という都市圏の性質にあるのは言うまでもない。
東京一極集中
東京圏1都3県(東京、神奈川、埼玉、千葉)の外国人を除いた転入超過数がここ20年超は過去最高記録を毎年更新している状態。
地方から東京圏へ人々が引っ越してきているために、人口が増加している。
東京圏に住んでいる人達が次々と子供を産んでいるから人口が増えているわけではない。
なぜ東京へ引っ越し?
東京へ引っ越す人達の主な理由は以下の2つ。
- 「東京で働きたかったから」
- 「東京に進学したい大学や専門学校があったから」
基本的に大学の所在地が首都圏、または働きたい会社の場所が首都圏のために、東京圏へ転入する人が絶えない理由といえる。
東京へ流入している人達の年齢を見ると、ほとんどは10代後半または20代。
つまり、何となくではあるが進学または就職のために引っ越していると理解できる。
地方へ移住する人は少ない
一方で、東京圏から地方部へ引っ越しする人はかなり少ない。
まず、首都圏から地方へ進学や就職のために移動することは何となくわかるだろう。
大都市圏に住んでいるということは、他の地域へ行かなくてもありとあらゆる学校や会社が存在。
自分が今住んでいる場所から近いところに自分の進みたい道が転がっている。
東京へ流入する理由は結構あるが、流出の方には合理的な理由が見つからない。
だからこそ、どんどん東京一極集中が起こり、朝夕の満員電車が激しいレベルに達するという流れが出来上がる。
時差通勤に消極的な社会
混雑緩和のために時差通勤を推奨しているのは鉄道事業者と政府・地方公共団体くらいにとどまっているのが現状。
民間企業では、少なくとも現場レベルでは時差通勤に対してプラスの印象を持たない空気が流れている。
満員電車のコアタイムに出社することが正しいという社会が出来上がっている。
時差通勤は悪いこと?
時差通勤を導入した企業においても、その制度が形骸化しているところも少なくない。
出社・退社時刻を通常と違う時間帯にする場合は事前に1週間の出勤シフトを申請する必要がある、あるいは上司との相談の上で時差通勤の許可をもらう必要があるといったところが目立つ。
一般的な社員が時差通勤の制度を利用したいと考えていても、実践に移すまでの負担が大きかったり、周囲の従業員に思わぬ迷惑がかかるという憶測によって「好ましくないこと」という認識が絶えない。
いつもとは違う時間に出退勤するのが「悪いこと」というイメージが少しでもある限り、思わぬトラブルを少しでも避けようと皆が9時出社・6時退社を選ぶ行動を維持する。
在宅ワークの欠如
職場へ出社しなくても業務ができる仕事を在宅ワークに切り替えるところが出ているのは確か。
しかし、これもまた日本では世の中全体的に消極的。
イメージとしても良い印象を持たない人もまだまだたくさんいる。
働いている姿を見せることがすべて
日本は労働時間が長い割には生産性が低いといわれている。
これは、実際の仕事の実績よりも会社で頑張っている姿を上司などに見せることが重要視されている社会に理由がある。
「働いている姿を見せること」を周囲にアピールすることが評価の対象になりやすいため、誰もが夜遅くまで用もなく残業したりする。
当然、在宅ワークと言ったら働いている姿がまったく見えないため、これだけで評価ダウンにつながってしまう。
在宅ワークでも可能な仕事をする人にまでも出勤を求めることで、在宅ワークが浸透していない今の現状が成り立っている。
すでに複数の企業にて取り組みとして「フレックス制度」や「裁量・在宅勤務制度」を実施しているのは確か。それでも積極的かどうかという点では、消極的としか言えない。
その結果、多くの会社で出社して働くことを維持し、余計に電車で通勤する人を増やすことへと至り、そして満員電車の原因となっている。
都心回帰
都心回帰とは、1990年代のバブル崩壊後に東京や大阪などの主要都市圏で見られている現象で、地価の下落で不動産関係の供給が、東京23区をはじめ都心と言われるエリアに流れていることを指す。
元々はマンションや一戸建て住宅に軸を置いた言葉だったが、近年は企業や大学でも都心に拠点を移す現象が起きていることもあって、経済活動の都心回帰も起こっている。
経済の中心が都心である以上は満員電車
経済の中心地が東京23区である以上、多くの企業は最終的には都心部へ本社機能を移転させることを願う状態が続く。
これは、同時に社員が通勤のために都心へ毎朝向かうことを意味する。
都心へ集中する企業が増えれば増えるほど、そこで働く人が毎朝出勤するために鉄道を利用することで、より乗客の数が増える。
結果として、満員電車の混み具合はさらに激しいものとなり、一向に解消されない形が出来上がる。
それぞれの企業にとっては都心に本社機能があることで取引が円滑に行えるようになるかもしれないが、社会全体としてみれば交通事情を圧迫する行動なのは言うまでもない。
大学の都心回帰
郊外から東京都23区内へ大学の都心回帰もまた無視できない。
最近では主に私立大学を中心にキャンパスを東京23区内またはその周辺へ郊外から移転する例が目立っている。
主な目的は学生の確保、間接的には偏差値の向上といえるが、交通事情という社会構造を考えると良いアイデアではない。
各大学には大きいところだと1学年だけで数千人の学生が所属。
郊外のキャンパスであれば、多くの通勤客が上り電車に乗る中で、学生たちは下り電車に乗る。
これによって、方向別で混雑の分散が可能な構造が成り立つ。
しかし、都心へキャンパスが移転すると、学生たちも通勤客と同じ方向の上り列車に乗ることになる。
下り電車は乗車率がさらに下がり、上り列車は混雑がさらに激しいものとなる。
ますます満員電車に拍車をかけることとなり、都心回帰が続く限りは朝ラッシュの混雑緩和は見込みが薄い状態が続く。
運行本数が少ない
東京の朝ラッシュの混雑するような時間帯では、どこの路線においても可能な限り最大限に電車を走らせている。
しかし、それでも需要に対して供給が追い付いていない状態、つまり輸送力不足となっている。
鉄道事業者が本数を増やしたくないから供給力が低いわけではない。需要に追い付けないから、異常なほどの地獄の満員電車がなくならないのは確か。
混雑率の数値 | 具体的な目安 |
---|---|
100% | 乗車定員。乗客の誰もが吊革・手すりにつかまれる。
ドア付近でも空間に余裕があり、リュックを背負って乗ることも可能。 |
130% | ドア付近では窮屈感がある。吊革・手すりにつかまれない人もいる。
リュックを背負って乗るのは不可能、下ろす必要あり。 |
150% | ドア付近だと他の人と触れるか触れ合わないかスレスレ。スマホの操作は可能。
車内奥はまだ余裕がある。新聞や雑誌はドア付近は読むのが無理。 手荷物は他人に触れる。スーツケース・キャリーバッグは持ち込む困難。 |
180% | 超満員電車のレベル。ドア付近は完全に乗客同士が触れ合う。
スマホの操作はドア付近は不可能、車内奥なら可能。 車内奥でも吊革・手すりにつかまれない人もいる。 |
200% | 車内奥もぎゅー詰めの状態。ドア付近は完全に乗客同士で押し合う。
完全に超満員電車で積み残しが発生。 スマホの操作は車内どこにいても難しい。 |
250% | 身動きが取れないレベル。スマホの操作は物理的に不可能。
途中駅では積み残しが発生。 東南アジアの満員電車の様子。 |
路線単位での混雑率250%という例は今ではないものの、それでも本来の理想的な数値である100%を超える路線が多い。
複線だと2分半間隔が限界
上りと下りの線路がそれぞれ1本ずつの「複線」の鉄道路線では、朝ラッシュに運転できる電車の上限は2分半間隔が限界。
1時間当たりに換算すると25本くらいが限界。
東京の朝ラッシュの時間帯になると、このような2分半間隔で運転されている路線でも混雑率が150~200%という高い数値になっている。
これは完全に需要過剰で供給が追い付いていないことを示す。