愛知環状鉄道の全線の複線化の計画に関して、今の単線からもう1本線路を建設して上下それぞれに分離する案がある。
国鉄時代に岡多線として開業したものの、赤字で採算が取れなかった歴史があり、JR化の際に第三セクターへ分離された。しかし、国鉄時代はまだ鉄道社会が浸透していた時代だったため、将来の需要の増加を見越して複線化の用地が確保された。
現在の愛知環状鉄道線はトヨタ自動車の工場などへの通勤路線として注目を集めて利用者数が伸び、黒字化も実現した。
愛知環状鉄道の複線化の有無と実現可能性
区間 | 単線/複線 | 実現の目途 |
岡崎~中岡崎 | 単線 | なし |
中岡崎~北岡崎 | 複線 | <完了> |
北岡崎~北野桝塚 | 単線 | なし |
北野桝塚~三河上郷 | 複線 | <完了> |
三河上郷~三河豊田 | 単線 | なし |
三河豊田~新豊田 | 複線 | <完了> |
新豊田~瀬戸市 | 単線 | なし |
瀬戸市~高蔵寺 | 複線 | <完了> |
愛知環状鉄道線の複線化は2000年代にある程度行われた。ちょうど、このころから黒字幅が拡大するのが決定的になった時期でもある。
>>愛知環状鉄道が黒字の理由とは!? 赤字から脱却できた背景
国鉄岡多線の時代はすべて単線であり、第三セクター化後の1990年代も単線で複線化は全く行われてこなかった。
しかし、愛知万博(愛・地球博)の開催やトヨタ自動車で通勤手段をマイカーから公共交通機関へ転換を推進する「マイカー通勤転換プロジェクト」もあって、一部区間では複線化が実施された。
全線にわたって基本的に本数は1時間当たり3~4本でそう多くはないものの、朝夕は満員電車になり、混雑も年々深刻になりつつある。
朝ラッシュの混み具合を見ると、名古屋駅や金山駅に到着するような電車と同じレベルになっている。
全線複線化の目途はない
ただ、全線の複線化が急がれるほどの需要があるかというと、そうとは言えるレベルではない。
愛知環状鉄道が黒字転換されたとはいえ、名古屋市中心部との直接の乗り入れがなく、あくまでも郊外の地域だけを結んでいることから、利用者数は限定的だ。
瀬戸市~高蔵寺間では朝夕の一部の列車はJR中央本線と相互直通運転を実施していて、名古屋駅まで乗り入れている。
ただ、それも複線化が完了している瀬戸市~高蔵寺だけに過ぎない。ここ以外の場所では愛知環状鉄道線内の区間運転に限られている。
さらなる大幅な利用者数の増加と運行本数の増便が計画されるようになれば複線化も事業家されるかもしれないが、その目途はまったく立っていない。
複線化の用地はあるが
愛知環状鉄道線は当初から将来的な複線化を前提に線路が建設されたため、そのための用地はすでに確保されている。もう1本線路を通せるスペースがある。
もし仮に複線化を実施するのであれば、余っている場所に線路を敷いて、駅ホームを追加するだけで済む。
単線区間のトンネル内も複線化を前提とした作りになっているため、もう1本掘る必要もない。
ただし、集電のための架線は別途必要になる。これを作るにはコストがかかるのは避けられない。
しかもレールを敷くとなれば、その分維持費も今よりもかかる。ランニングコストが増加することから、利益は低下して黒字幅が小さくなってしまう。
そして、運行本数を増やすためには車両の増備も必要になる。1両だけで億単位の費用がかかるため、もともと赤字だった愛知環状鉄道だと困難な内容ではある。