東急田園都市線には「特急」という種別の列車が設定されたことは今までに一度もない。現在でも一番所要時間が短い最速列車は「急行」である。東横線とは違ってスピードアップには消極的な傾向があるが、なぜ速達化しないのか。
優等列車である急行は、田園都市線では日中の時間帯であれば1時間当たり4もしくは5本運転されている。一方の、東横線では特急が1時間当たり4本運転されていて、それに加えて急行が4本運転されている。
東横特急については、停車駅はかなり少なく抑えられている。他の路線との乗り換え駅として非常に重要な駅にしか止まらない。田園都市線の急行は主要な駅に加えて中規模の駅にも止まる傾向にある。
停車駅を可能な限り少なくした東横線の特急に対して、田園都市線では特急のような新しい種別を設定してまで所要時間を重視する傾向は見当たらない。
慢性的な輸送力不足が理由
東急田園都市線は日本でも朝の混雑率が非常に高く超満員電車となっている光景がある路線としてよく知られている。通勤通学の時間帯には電車の運行本数を限界まで増やしているが、それでも需要に対して輸送力不足となっている。
さらに、各駅停車を避けて急行に殺到する乗客がかなりいたことから、2006年からは朝ラッシュの時間帯には急行を廃止して停車駅を大幅に増やした準急に切り替えたという歴史もある。
輸送力の強化が真っ先の課題となっていえ速達サービスに力を入れている余裕がないのが田園都市線の現状である。これが、特急を新設する予定がまったくない理由といえる。
しかも、近年は東京一極集中が社会的な問題となっている中で東急田園都市線の沿線の人口はしばらくの間は増え続けると予想される。他の路線とは対照的な現象が起きている。
複々線化のような抜本的な改善策も今のところはない。今後も輸送力不足が予想されている。よって、田園都市線にて特急を設定して停車駅が少ない電車を作る余裕はないのだ。
並行する競合路線がない
田園都市線に特急のような速達性を重視した種別が運転されていないもう1つの理由は、並行する競合路線が存在しない点が挙げられる。
東横線の場合、渋谷から横浜にかけてはJR湘南新宿ラインという路線が存在している。東京都心から横浜駅という視点で見れば、さらにJR東海道線と京急本線も競合他社といえる。乗客が分散する要因が存在するため、速達サービスに力を入れているわけだ。
同じ東急電鉄でも田園都市線の方は、始発駅は渋谷駅だが終点が中央林間駅であるため、競合する他社はないに等しい。
地図上では小田急線とやや並行するような感じもあるが、いずれも混雑が激しい路線ということもあって、乗客を奪い合うほどのライバル関係にはまったくない。
むしろ田園都市線の乗客の一部が小田急へ流れた方が都合が良いともいえるような状態にある。そのため、特急が新設される合理的な理由は見つからない。