山陽・九州新幹線は相互直通列車のみずほ号、さくら号ともに自由席の設定があって「全車指定席」ではない。その理由について考察してみた。
北陸新幹線のかがやき号のように全席指定になったり、東北新幹線のように自由席が廃止になってたりしたことがなく、その可能性も今のところは低い。
なぜみずほ・さくらのいずれもすべての座席を指定席にはされていないのか。JR東日本が管轄する他の新幹線の路線とは違った特徴があることが背景にある。
目次
みずほ号、さくら号で全車指定席にはならない理由
<自由席に積極的な背景> | |
主な理由 | 詳細な内容 |
座席配置が自由席・指定席で異なる | N700系8両編成は、自由席は3+2列、指定席は2+2列の座席配置になっている。指定席はゆとりある空間を提供し、普通車でも自由席との違いを打ち出している。 |
鉄道事業者が2社ある | JR西日本、JR九州の2社をまたいでいる。すでに開業済のため、全車指定席には2社間の協議が必要。 |
のぞみ・ひかりとの関連性 | みずほ=のぞみ、さくら=ひかりとの関連性がある。停車駅も基本的にそれぞれとほぼ同じ。1~3号車は自由席という認識で統一したい思惑も。 |
停車型へ誘導する必要がない | 短距離利用者が多く、関西~九州南部を通しで乗り続ける人が少ない。指定席・自由席のいずれも途中駅での入れ替えがあり、停車型へ誘導する必要がない。 |
山陽・九州新幹線のみずほ号、さくら号にて自由席の設定がある理由は、これら4点ではないか。
JR東日本の管轄下もしくはその影響下にある新幹線では速達型の種別を中心に普通車の座席がすべて指定席となる「全車指定席」を採用している一方、上越新幹線はその例外的な存在になっている。
自由席が廃止されるのではないかという予想をする人もよく見かける。とはいえ、本当に自由席が消滅する可能性は薄い。
参照:新幹線の路線ごとの「全車指定席」を導入の有無! それらの背景も
座席配置が自由席と指定席で異なる
みずほ号、さくら号ともに全車指定席にはならない最大の理由とも言える特徴なのが、自由席・指定席それぞれで座席配置が違う点である。
すべてN700系8両編成で運転されているが、3人掛けの配列の有無で違いがある。
自由席に設定される1~3号車は海側の座席が3人掛け、山側の座席は2人掛けである「3+2列」となっている。
指定席になる4、5号車、6号車の半分(残り半分はグリーン車)、7,8号車は海側・山側ともに2人掛けの「2+2列」の配置となっている。
座席の横幅も自由席より指定席の方が広い。「ひかりレールスター」の愛称で知られる700系7000番台と同じ配置を採用している。
指定席は普通車でも座席の広さに余裕を持たせているところが自由席とは異なり、それがセールスポイントの1つにもなっている。
仮に全車指定席にしたとすると、3+2列の1~3号車の座席配列を変えないと乗客にとっては不都合になってしまう。
みずほ号、さくら号のいずれも自由席の設定がある理由でもあると考える。
JR西日本、JR九州の2社をまたぐ
みずほ号、さくら号のいずれもJR西日本、JR九州の2つの鉄道事業者をまたぐ。
どちらかが全車指定席にしたいという意向があっても、もう一方の鉄道事業者の賛同がない限り、自由席を廃止にすることは困難。
もっとも2社ともに全車指定席には消極的な姿勢を感じる。
JR西日本が管轄する山陽新幹線内はJR東海が管轄する東海道新幹線とも乗り入れている都合から、全車指定席を新大阪以西の部分だけに導入することには消極的になりやすい。
JR九州が管轄する九州新幹線ではそもそも長距離を移動する人はあまりいなく、近距離利用者が多い。博多~熊本間の利用も多い上、九州新幹線と山陽新幹線を通しで乗る乗客は少ない。
どちらにも全車指定席にする理由が今のところは少なく、今後も自由席が維持されていく可能性が大きい。
のぞみ・ひかりとの関連性
九州新幹線が全線開業した2011年から山陽新幹線との相互直通運転が行われているが、それまで新大阪~博多間の区間運転だった列車がみずほ号、さくら号に置き換えられた事情もある。
さくら号はそれまでのひかり号が置き換わって登場した側面が大きい。日中の時間帯のひかり号はほとんど山陽新幹線乗り入れのさくら号に切り替わった。
みずほ号はさくら号よりも停車駅を少なくした種別として登場し、大阪~鹿児島の航空機シェアを新幹線に移行させるという意図があった。
こうした事情から、山陽新幹線に当たる新大阪~博多間ではみずほ号がのぞみ号、さくら号がひかり号と同等という位置づけとなった。
のぞみ号、ひかり号はどちらも自由席の設定がある。九州新幹線の開業で変わったとはいえ、みずほ=のぞみ、さくら=ひかりという認識で統一させたいという思惑もあって、全車指定席にはならなかった理由の1つとも考えられる。
参照:のぞみ号が「全車指定席」でない理由とは!? 自由席の存在意義
停車型へ誘導する必要がない
みずほ号、さくら号ともに短距離利用者が多いのもまた山陽・九州新幹線ならではの特徴である。新大阪~広島、広島~博多、博多~熊本のような特定の区間だけの利用も目立つ。
こうした路線では速達型から停車型の種別へ誘導させるメリットが薄い。そして、これが全車指定席にする必要がない理由にもなる。
全車指定席を導入している東北・北海道新幹線、北陸新幹線は長距離利用者がほとんどである。加えて、これらの路線では速達型の種別から短距離利用者を停車型の種別へ誘導させたいという意図もある。
北陸新幹線は東京~長野ははくたか号、あさま号へ誘導してかがやき号の過度な混雑を避けたいという意向がある。
東北新幹線も東京~仙台は停車型のやまびこ号へ誘導して混雑差を少なくしたいという意向がある。
山陽・九州新幹線はみずほ号からさくら・こだま・つばめ号へ誘導させたいという思惑はない。特定の区間だけに乗客が殺到して、他の種別との混雑差が問題になることが少ない。
のぞみ、みずほの速達型と、ひかり・さくらの準速達型の混雑差は少ないことで、全車指定席と自由席設定列車という違いを設ける必要性に乏しいと言える。
>>山陽新幹線の乗車駅ごとの自由席の座れる確率! 混雑状況を調査
自由席が廃止される可能性は?
山陽・九州新幹線のみずほ・さくらにて自由席が廃止される可能性は今後も低いままであり続けるだろう。
のぞみ号で全車指定席になったら事態が変わってくるかもしれないが、その可能性も今のところは低い。
新幹線において「全車指定席」というのはJR東日本の管轄するエリアに限った話に過ぎないだろう。
東北・北海道新幹線と北陸新幹線が例外的なパターンで、東海道・山陽・九州新幹線の系統はこれらとはまた別の事情がある。
路線の背景が違えば、全車指定席の必要性も違う。