東北新幹線及び北海道新幹線の「はやぶさ」と「はやて」には自由席がまったくない。全車指定席になっているため、乗車する際には指定席特急券が必要となる。なぜ1両も自由席がないのか。それには理由がある。
はやぶさ号もはやて号も、東北新幹線の中では速達列車という位置づけになっている。ほとんどの列車が、大宮~仙台間はノンストップで、大きな駅にしか停車しない。
運転区間も、一部を除いては新青森駅や新函館北斗駅まで走る。首都圏と東北地方北部の地域を結ぶ列車という位置づけになっている。
はやてが登場したのは2002年、はやぶさが登場したのは2010年のことであるが、当初からこれら2種類の列車では全車指定席制をとっている。
目次
はやぶさ号に自由席がない理由
主な背景 | 詳細な内容 |
---|---|
長距離輸送がメイン | はやぶさ号は東北新幹線・北海道新幹線区間を含めて速達型。指定席を選ぶ人が多い長距離輸送が中心。 |
採算性が良い | 指定席特急券は自由席特急券よりも割高なため、JR北海道にとって採算の都合が良い。自由席を設定するよりも儲かる。 |
「やまびこ」と差別化 | 東京~仙台でやまびこ号と利用者層を差別化するため。自由席を設けるとはやぶさ号に乗客が殺到する点を考慮し、混雑緩和のために全車指定席にしている。 |
はやぶさ号が登場したのは2011年。東北新幹線の新青森駅延伸の直後に登場した新種別。
もともとはやて号で「全車指定席」を採用していたこともあって、はやぶさ号でも登場時から自由席なしの運用となっていた。
参照:【東北新幹線】はやぶさ/はやて/やまびこ/なすのの違いの一覧
はやぶさ号は東京~盛岡・新青森・新函館北斗を結ぶ列車である。やまびこ号と比べて長い距離を走る。
大宮~盛岡間で発生するはやぶさ号の加算料金も理由は同じ。
全車指定席の新幹線には他にもある。ただし、いずれも速達型の種別かつJR東日本が主体の列車のみ。
長距離輸送がメイン
長距離を新幹線で移動する人の多くは、座席指定の手間がかからない自由席よりも着席保障がある指定席を好む。
座席を指定する手間がいらない自由席を希望するのは近距離を移動する人たちに限られている。
値段の話は別として、乗車時間が長いと100%座れることを求める。
はやぶさ号や以前のはやて号はこれに該当し、長距離輸送がメインということで自由席よりも指定席を選択する人の割合が圧倒的に大きい事情がある。
これは、自由席が残っている(全車指定席ではない)東海道・山陽・九州新幹線の「のぞみ」「みずほ」にも該当する。
採算性が良い
指定席特急券は自由席特急券よりも値段そのものが割高となっている。
乗客にとっては負担する料金が高い分、金銭的な痛手が大きいというデメリットになる。一方、鉄道事業者にとっては収益高が増えるためメリットとなって都合が良い。
東北新幹線の盛岡駅以北は特に整備新幹線としてここ最近になって開業した新規路線に当たり、線路建設の借金の負担(鉄道運輸機構への線路使用料の支払い)が残っている。
少しでも収益を増やすことが課題となっている中、東北新幹線のうち盛岡駅以北まで行く人たちが利用する列車であるはやぶさ号を全車指定席にすることで旅客収入を多くできている。
もし自由席の設定を行うと、特急料金も「自由席特急券」の料金分しか入ってこない。
指定席特急券よりも割安なため、1人当たりの旅客収入が減ってしまう。これを防ぐためにも全席指定が有効な対策なのは確か。
やまびこ号との差別化
速達型のはやぶさ・はやてで自由席を設定すると、東京~仙台・盛岡間を行き来する人がこれらに殺到してしまう。
やまびこ号は停車駅が多いことで所要時間も長くなる。だから、首都圏と仙台以北の地域を行き来する人はなるべくはやぶさ号に乗るのを希望する。
はやぶさ号に乗客が集中してしまうと、はやぶさ号が主体的な存在になる仙台以北、さらにはやまびこ号そのものの運転がない盛岡以北の乗客が乗り切れなくなってしまうという問題が生じる。
一方、やまびこでは空席が目立つこととなり、輸送効率が悪くなってしまう。
混雑差を防ぐために、JR東日本はあえてはやぶさ・はやての2種別を自由席無しの「全車指定席」にしてきた。
最大目的:仙台までの利用者をやまびこへ誘導するため
東京→仙台間(通常期) |
料金 | 発売期間 |
|
---|---|---|---|
はやぶさ | やまびこ | ||
普通車指定席 | 11,200円 | 10,890円 | 制約なし |
トクだ値10 | 無 | 9,790円 | 乗車前日まで |
トクだ値15 | 無 | 9,240円 | 乗車前日まで |
トクだ値30 | 無 | 7,610円 | 乗車13日前まで |
トクだ値35 | 無 | 7,070円 | 乗車13日前まで |
普通車自由席 | 無 | 10,370円 | 制約なし |
※トクだ値はすべて普通車指定席。はやぶさ号の切符は発売されていない。
現行のはやぶさ号はかつてのはやて号と同じように大宮~仙台間はノンストップで運転されている。また、東北新幹線の乗客の利用区間について、東京~仙台を移動する人がかなり多い。
やまびこ号との差別化ははやて号が登場した2002年から行われている。
はやぶさ・はやてに自由席があると、仙台駅と東京・上野・大宮駅を移動する人が、停車駅が多いやまびこ号を避けて速達性の高いはやぶさ号とはやて号に殺到してしまう。
仙台駅以南の部分だけを使う乗客をなるべくやまびこ号へ誘導し、はやぶさ号とはやて号は東北地方の北部の駅を乗り降りする人を多く使ってもらう目的としても、自由席を設置せず全車指定席にしている理由だろう。
近距離利用者を停車駅が多い種別へ誘導させるために速達型を全車指定席にしている例は、北陸新幹線にもみられる。
停車駅が多いはくたか号とあさま号には自由席があるが、最速のかがやき号には自由席がない。
東北新幹線・北海道新幹線についてもこれと同じシステムとなっている。
はやて号
はやて号もまた同じように「全車指定席」になっている。
今でははやぶさ号が東北新幹線の速達型の種別という役割を果たすようになり、定期列車では盛岡~新函館北斗間の区間運転にしかついていない。
しかし、八戸駅は終点だった時代ははやて号こそが速達列車の代名詞だった。
大宮~仙台はノンストップで、自由席がなかった理由は上記の通り。
整備新幹線という国鉄時代からできている新幹線と違う点があることも背景といえる。
指定席券は運賃が高いので利益も良い
自由席特急券と比べて指定席特急券は、料金そのものが高い。そのため、自由席の車両を設定するよりも全車指定席にした方が鉄道会社によっては大きな利益が確保できる。
東北新幹線の中でも、近年開業した盛岡以北では未だに建設コストの返済分が残っている。この部分は、「整備新幹線」として建設されたため、正確にはJRではなく鉄道運輸機構という独立行政法人が線路を所有していて、JR側は借りているという構図になっている。
JRは鉄道運輸機構に対して使用料を支払っている。当然ながら、自社で所有していて、しかも開業してから年月が大きく経過している盛岡以南と比べて維持費は高くついている。
さらに、利用者数も首都圏に近い南部と比べて少ない。運賃収入そのものが少ない部分となっている。
盛岡以北の区間へ乗り入れるはやぶさ号とはやて号の運賃単価を高く維持するため、これらの種別では格安な値段になっている自由席がないのだ。
満席だった場合はどうなる?
はやぶさ号で普通車指定席が満席の場合の措置
「立席特急券」を発売:デッキなどにに乗車できる(空席もOKだがそもそも空いていない)
※立席特急券は普通車指定席が完全に満席となった場合にのみ発売される。
※指定列車以外は乗車NG。乗り遅れたら後続列車に乗ることは可能。
「立席特急券」が発売される
東北・北海道新幹線の「はやぶさ」「はやて」のような全車指定席の新幹線では自由席特急券では乗れないため、代わりの救済措置がある。
普通車指定席が完全に満席で、もうこれ以上は空席がない状態になった場合は「立席特急券」が発売される。
立席特急券であれば、指定席が完全に満席の場合でもデッキや通路などで立って乗ることができる。
空席があるのであれば、車掌に申し出ることで座ることも可能。ただし、そもそも満席の場合でしか立席特急券は発売されないため、基本的に空いていることはない。
特に東京~仙台の区間で座れることはあり得ない。(仙台以北なら空いている可能性あり)
注意点がある
なお、立席特急券には注意点がある。
立席特急券は指定列車しか乗ることができない。はやぶさ号・はやて号ともに、特定の発車時刻の列車しか乗ることができず、先発や後発の列車には基本的に乗れない。
自由席特急券の場合は、その日のうちからどの列車に乗っても問題はない。
立席特急券で乗り遅れたら、後続列車に乗ることは特例規約で認められているものの、1本前の列車に乗るのは完全にNG。
立ち席とはいえ、一応は「指定席特急券」とほぼ同じ扱いなのが特徴。
さらに、「立席特急券」そのものにも発売枚数に制限がある。自由席特急券は無制限に発売されるが、立席特急券では「売切れ」という概念もある。
大型連休(年末年始・GW・お盆)のピークの時間帯だと立席特急券でも完売になる事例もかなり多い。
例外事項
特急券の種類 | 適用区間 | 使用条件 |
---|---|---|
特定特急券 | 盛岡~新函館北斗 | 盛岡~新函館北斗間の区間のみの利用に限って普通車指定席の空席に着席可能。盛岡駅から南側の区間を乗る場合は適用不可。 |
自由席特急券 | 仙台~盛岡(各停のみ) | 仙台~盛岡の各駅停車のはやぶさ号なら自由席特急券で空いている普通車指定席に着席可能。通過型のはやぶさ号は不可。 |
東北・北海道新幹線の盛岡以北では「特定特急券」の制度がある。
盛岡~新函館北斗の区間に限って新幹線を使用する場合は、「特定特急券」を購入することで空いている普通車指定席に座ることができる。
料金は自由席特急券と同じ金額。割高な「指定席特急券」を購入する必要がない。
盛岡~新函館北斗だけなら「特定特急券」
盛岡~新函館北斗の区間だけの利用に限っては、座席指定をせずにはやぶさ号・はやて号に乗車できる「特定特急券」という制度がある。
特定特急券はほとんど自由席特急券と同じだが、普通車指定席の空いている空席に着席できる。
料金は自由席特急券と同じ金額。したがって、指定席特急券よりも300~500円程度安くなる。
ただし、乗車駅または降車駅のいずれか一方でも盛岡駅より南側の駅だと適用されない。
一部区間だけ特定特急券に設定することはできない。
例えば、仙台~新青森の利用だと、仙台~盛岡は自由席特急券、盛岡~新青森は特定特急券という風にはできない。分割して購入することはできるが、全区間指定席にするよりも割高になる。
よって、東京~新花巻の東北新幹線の駅を乗り降りする人には、特定特急券の制度は関係ない話である。
仙台~盛岡の各停型はやぶさ号は「自由席特急券」で乗車可能
はやぶさ号にも2種類のパターンが存在する。
1つ目は、仙台~盛岡をノンストップで運転する列車。2つ目は仙台~盛岡間は各駅に停車する列車。
後者の仙台~盛岡の区間は各駅停車になるはやぶさ号の場合、この区間に限っては「自由席特急券」で乗れる。
東京~盛岡の東北新幹線を自由席で利用する場合、東京~仙台はやまびこ号、仙台~盛岡は各駅停車のはやぶさ号に乗るというのはOK。
各駅停車のはやぶさ号の仙台~盛岡間は、普通車指定席の空いている空席に着席することが可能。
一方のノンストップ運転のはやぶさ号は対象外。こちらは空席があっても指定席特急券が必須。自由席特急券では乗れない。
他の路線の全車指定席と自由席の事情
新幹線の路線 | 種別 |
東北・北海道・秋田・山形新幹線 | はやぶさ・こまち・やまびこ・つばさ・なすの |
上越新幹線 | とき・たにがわ |
北陸新幹線 | かがやき・はくたか・あさま・つるぎ |
東海道・山陽・九州新幹線 | のぞみ・ひかり・こだま・みずほ・さくら |
参照:新幹線の路線ごとの「全車指定席」を導入の有無! それらの背景も