東京メトロ銀座線と丸ノ内線は他の路線と相互乗り入れを実施していないが、その理由には5つの背景が挙げられる。いずれも単独路線となっている数少ない路線である。
なぜ他の東京の地下鉄のように他の鉄道会社と「相互直通運転」を行っていないのか。理由を考えたことがある人は多いのではないか。
具体的な理由としてあげられるのは、次の5つの点だろう。
- 線路の幅が1,435mmだから(ふつうは1,067mm)
- 車両の規格が小さい
- 架線が第三軌条方式
- 高頻度運転
- 接続路線がない
地下鉄銀座線も丸ノ内線も建設された時期が非常に古い。そのため、路線の規格も旧式の低い水準のものとなっている。
首都圏の場合、JR・私鉄各線の多くは線路幅が1,067mmとなっている。車両も20m×10両編成のところが多い。
目次
理由は5つ! 丸ノ内線、銀座線ともに相互直通運転なしの背景
丸ノ内線、銀座線の2路線で他の路線と相互直通運転を行っていない理由は以下が挙げられる。
<丸ノ内線、銀座線で相互乗り入れがない理由> | |
主な理由 | 詳細な内容 |
線路の幅が「標準軌」である1,435mm | 東京メトロの中で標準軌を採用しているのは丸ノ内線、銀座線の2つだけ。それ以外はすべて狭軌(1,067mm)。他社の標準軌の私鉄は京急、京成のみ。 |
車両の規格は丸ノ内線が18m級、銀座線が16m級 | 車両の規格が小さい。丸ノ内線は1両当たり18m、銀座線は16mと短い。他の路線は20mが標準。 |
集電方法が第三軌条方式、直流600V | 集電方法がいずれも「第三軌条」で直流600V。線路脇に電線が通っている。通常の電車は架線方式で、車両の頭上に電線があり、直流1500V。 |
高頻度運転を実施 | 朝ラッシュの通勤ラッシュは本数が多いのは当たり前だが、丸ノ内線、銀座線は日中でも高頻度運転。丸ノ内線は4分間隔、銀座線は3分間隔で運転。 |
接続路線がない | 起終点駅で直通先となる路線の候補そのものがない。丸ノ内線、銀座線の電車が乗り入れられるほど線路容量に余裕のあるJR・私鉄が存在しない。 |
※開業時期が早いことも、他の路線と異なる事情を持つ背景の1つ。 |
丸ノ内線、銀座線には共通点がいくつもある一方、それ以外の東京メトロや都営地下鉄、さらにはJR線やそのほかの私鉄各社とは相違点が多い。
他の鉄道事業者と相互乗り入れを行っている他の東京メトロの路線は、JR・私鉄と共通点が多く、規格そのものも統一している。
JR・私鉄とはできない独自色のある規格
銀座線も丸ノ内線も線路の幅は1,435mmとなっている。これは新幹線のレール幅とまったく同じ。
架線の方式も大きく異なる。通常の鉄道路線では天上の上に架線が通っている。しかし、銀座線・丸ノ内線は第三軌条方式をとっていて、線路が敷かれた平面上にある。
車両1両の長さも20mが主流であるが、銀座線は16m、丸ノ内線は18mと若干短い。建築限界から20mの車両が通れないためだ。
地下鉄銀座線・丸ノ内線で郊外の私鉄やJR線との相互直通運転を行っていない理由はここにある。
丸ノ内線 | 銀座線 | 一般的な路線 | |
レール幅 | 1,435mm(標準軌) | 1,435mm(標準軌) | 1,067mm(狭軌) |
車両の長さ | 18m | 16m | 20m |
集電方法・電圧 | 第三軌条方式・600V | 第三軌条方式・600V | 架空電車線方式・1500V |
レール幅が標準軌(1,435mm)
丸ノ内線、銀座線ともに線路の幅が1,435mmである。これは「標準軌」と呼ばれるタイプの規格である。
日本の新幹線はこのレール幅を採用している一方、在来線は1,067mmである「狭軌」を採用しているケースがほとんど。
私鉄に関しては、関西圏では南海電鉄を除くほとんどの鉄道会社が1,435mmが主流になっている。阪急、阪神、山陽、京阪、近鉄の大部分、大阪メトロはいずれもレール幅は「標準軌」になっている。
対照的に、東京を中心とする首都圏ではJRの在来線と同じ「狭軌」と呼ばれる1,067mmが私鉄のほとんどでも採用されている。
例外といえば、丸ノ内線、銀座線と同じ「標準軌」の京急、京成、1,372mmの「馬車軌間」を採用している京王線と相互乗り入れを行う都営新宿線のみである。
フリーゲージトレイン出ない限り、これらの線路幅の異なる路線を互いに乗り入れることは不可能である。
車両の規格が小さい
丸ノ内線の車両の長さは1両当たり18m、銀座線は16mである。
他の路線を見ると、ほとんどは1両当たり20mである。例外に当たるのは京成、京急、都営浅草線くらいである。
小さい規格の車両なら20mクラスの車両を投入する路線に乗り入れるのは可能だが、その逆は難しい。トンネルの掘削工事が必要になる。事業費は確実に多額の金額になる。
さらに、最近はホームドアを設置する鉄道事業者が増えている。ホームドア設置には車両のドアの位置が固定的でないといけないという制約があり、16m、18m、20mの異なる各規格の車両が入れ混じっているのは都合が悪い。
丸ノ内線、銀座線が他の路線に乗り入れるという計画がほとんどない1つの理由になっているのは確実。
参照:銀座線は他の地下鉄よりも狭い! 車両も短いのはなぜだ?
第三軌条方式、直流600V
丸ノ内線、銀座線ともに集電方法は「第三軌条方式」である。東京メトロのほかの路線を見ると、すべて頭上に電線がある「架線方式」になっている。
電圧も丸ノ内線、銀座線のみ直流600V。一般的な路線は直流1500Vが主流。
したがって、仮に相互乗り入れを行おうとしても、架線方式の路線に乗り入れることは物理的に不可能。電圧が直流1500Vの路線へも電気系統の問題から直通運転はできない。
第三軌条方式は地上路線の集電方法には不適切でもある。踏切があるところだと、通行者が感電してしまうリスクがある。安全性の問題から、おそらく国土交通省からも認可が下りない。
運行ダイヤの問題も
丸ノ内線・銀座線が他の路線と相互直通運転を行えない設備的な理由があるが、運行ダイヤ上にも大きな問題がある。
他にはないほどの過密ダイヤ、そしてそれに伴うダイヤ作成上の障壁が存在する。
丸ノ内線、銀座線はともに東京都内の繫華街を結ぶんでいるため、朝夕のみならず1日を通して利用者が多い。
その一方で、駅ホームの長さの都合上、いずれも首都圏では短い6両編成で運転されている。
他だと8~10両編成が主流のため、運転本数を多くして需要に対応している。単独路線なら問題ないが、相互乗り入れになれば支障が出る。
<参考記事>
>>【丸ノ内線】混雑はどれくらいのレベル!? 朝ラッシュはどうか?
>>東京メトロ銀座線はどのくらい混雑する!? ラッシュと日中は?
日中でさえ過密ダイヤ
朝ラッシュの時間帯ではどこの路線でも可能な限り高頻度運転を実施する。輸送力を保つために最大限度まで供給力を維持している。
一方の利用者が少なくなる昼間の日中の時間帯では本数を減らすのが基本である。供給力過剰になってしまうからだ。
地下鉄だと、東京メトロは5分間隔が一般的である。郊外のJR・私鉄だと10~15分間隔になるところもある。
しかし、丸ノ内線・銀座線は日中でさえ高い密度で列車を運行している。
銀座線は3分間隔で運転している。丸ノ内線も4分間隔で走っている。いずれも首都圏でもトップクラスの過密ダイヤである。
相互乗り入れを行うと、他の路線とのダイヤ作成の折り合い点を見つけなければならず、今の供給力を維持するのが難しい。
途中駅で折り返しするとしても、さすがに1日を通して3~4分間隔で運転されているとなると、設備の観点からもデメリットになるだろう。
しかも遅延が生じやすくなるという欠点も受けることになる。ダイヤが乱れやすくなって、平常運転が難しくなるのが想定される。
丸ノ内線、銀座線ならではの日中の時間帯でも過密ダイヤな特徴は、相互乗り入れの実施にはまったく向いていないのは確か。
銀座線・東急田園都市線の相互直通運転計画は存在した
かつて、今の東急田園都市線が渋谷駅まで乗り入れる計画が発表された頃、これと地下鉄銀座線との相互直通運転を行うという計画が存在していた。
渋谷駅から都心側を銀座線、外側を新玉川線(田園都市線の古い名称)とする案だった。
しかし、結局は断念された。新たに半蔵門線を建設して、東急田園都市線からの乗り入れ電車が都心側へも行けるようにした。
銀座線との乗り入れが実現されるまでには至らなかったのは、田園都市線との規格の違いだろう。
田園都市線は20m級の車両が使われている。終電方式も架線タイプである。乗り入れを行うなら第三軌条方式に変える必要が出てくる。
戦前に開業した建築限界の低い銀座線のため、私鉄との乗り入れが実現されなかったと考えるのが合理的である。
なお、首都圏でトップクラスの混雑率を誇る田園都市線に銀座線の車両が走ることとなれば、かなり輸送力が低下するのは避けられない。
【東急田園都市線】ラッシュ時・日中の混雑度はどう? もう常に満員!?
今よりも混雑がより激しくなり、200%を軽く超えるほどの混雑率になったかもしれない。結果的に半蔵門線への直通運転になって良かったというのが正直な感想ではないか。