JR貨物が再び「赤字」に転落する可能性は!? 黒字が続くか分析

黒字化を達成したJR貨物

JR貨物は2017年には鉄道事業単体での黒字化を実現したが、今後再び赤字に転落する可能性はあるのか。

企業の利益が上がった背景には、日本国内の運送会社がこれまではトラック輸送でまかなってきた長距離輸送を鉄道(貨物列車)に切り替えたところが増えたことが挙げられる。

トラックから鉄道へ転換する「モーダルシフト」がJR貨物が黒字化できた最大の理由だろう。逆に言えば、運送会社が再びトラックに切り替えれば鉄道による貨物輸送量が減るリスクはあり得る。


JR貨物の黒字化の背景

<JR貨物が黒字化達成の理由>
主な内容 詳細
モーダルシフト 長距離トラック輸送を鉄道に切り替えた運送会社が続出。トラック運転手の不足が背景。
原油価格の高騰 原油価格が上昇したことで、鉄道輸送の方が経済的になった。
人件費の高騰 トラック運転手の人件費が上昇傾向で、より人手を使わない方法へシフト。

1989年に国鉄が民営化されて以来、JR各社でもJR貨物は1990年代後半からは赤字の状態が慢性化していた。自立できた東日本・東海・西日本とは天と地の差があった。

それでも民営化30年が経過してからようやく黒字化が実現したのがJR貨物ならではの特徴と言える。

未だに大幅な赤字で経営不振に陥っているJR北海道やJR四国よりははるかに状況が良いのは確か。

>>JR北海道はなぜ赤字!? 黒字化は永久に難しい理由

>>JR四国はなぜ赤字!? 黒字化は永久に無理なたった1つの理由

モーダルシフト

モーダルシフトの恩恵を受けるJR貨物

JR貨物が黒字化を達成した直接的な理由といえば「モーダルシフト」である。

国内の運送会社が自社でトラックを走らせて取扱貨物を輸送していたところを鉄道に切り替えた事例が増えたことが要因になる。

近距離輸送だと小回りが利くトラックの方がまだまだ優勢だが、長距離輸送となれば貨物列車の方が優位に立つ。

さらに、都市間輸送で輸送量が多いところだと複数台のトラックが必要になるが、鉄道であれば1本で輸送できるというメリットもモーダルシフトの背景にある。

車両の数はともかく、近年は人手不足によってトラックドライバーが少ない。大量の荷物をさばける体制が崩れてきたことで、効率性が確保されている鉄道に切り替えた運送会社が続出した。

原油価格の高騰

原油価格の高騰

原油価格の高騰はトラック輸送が中心の運送会社には大きな痛手になる。経費としての出費が増える原因になる。

貨物列車ならば原油価格の影響を直接受けることが少ない。結果的にトラックによる輸送よりもJR貨物に委託した方が安上がりになるという構図ができた。

特に北海道・東北~九州地方などのように距離が長くなればなるほど消費する燃料が増え、鉄道による輸送の方が効率的かつ安上がりになる。

人件費の高騰

日本では労働人口が減少していることで、人件費の高騰が進んでいる。トラックドライバーを採用すれば、その分人件費としてのコストが会社側には負担になる。

給料水準を上げてまでしてトラック運転手を確保すれば、長距離輸送でもトラックによる輸送を維持することは不可能ではない。

鉄道に切り替えれた方がコスト的に安くなる理由がここにある。

鉄道でも運賃の値上げによって輸送費が上がることもあるが、人件費の上昇幅の方が大きい。

このように費用対効果を考えると鉄道の方がメリットが大きいからこそ、国内の運送会社が長距離輸送を貨物列車に切り替えている理由である。

再び赤字になるシナリオ

<JR貨物が赤字転落する可能性>
考えられる要素 詳細
自動運転 トラックの自動運転が普及すれば、長距離輸送も再びトラックが主役になる可能性大。
機関車の更新 JR貨物の機関車のほとんどは国鉄時代のもの。老朽化による新型車両の導入はコスト的に大きな負担に。
取扱貨物量の減少 人口減少が進んで取扱貨物量が減れば鉄道輸送量そのものが減って赤字に

自動運転

自動運転を懸念するJR貨物

運送会社にとっては人件費を下げられる自動運転は大きなメリットだが、JR貨物にとっては大きな脅威になるだろう。

高速道路上での自動運転が最近のテーマとなっているが、一般道路も含めてこれが完全に実現出来ればトラックドライバーの人手不足の問題の大部分は解消される。

鉄道に切り替えるモーダルシフトの理由の1つが失われることとなる。そうなると、JR貨物を利用する運送会社が減って収益性が低下する。

少なくとも鉄道事業の赤字転落は確実なものとなるだろう。

機関車の更新

JR貨物だけでなく他の鉄道会社にも当てはまることだが、車両の更新時期は必ずやってくる。

貨物列車では特に機関車の老朽化が進んでいる。しかも機関車の費用は1両だけでも数十億円規模になる。まだまだ黒字幅が小さいJR貨物にとっては負担が大きい。

機関車を更新すれば経費としての出費が一気に増えることで、営業利益は赤字に転落するかもしれない。

旅客鉄道会社本州3社のように大幅な黒字を達成しているところでは車両の更新は痛くも痒くもないものだが、JR貨物はそういうわけにはいかない。

取扱貨物量の減少

日本の人口は今後急速に減少すると予想されている。それは物流量が減少することも意味する。

国内の貨物輸送量が減れば、貨物列車による輸送量も減る。運賃による収入で支えられるJR貨物の鉄道事業は収益が下がることは避けられない。

一般的な運送事業者なら新しい市場を求めて海外へ進出するという手段があるが、国内の鉄道網に頼るJR貨物はそういうわけにはいかない。

国内の貨物輸送量の動向がJR貨物の黒字・赤字の行方を左右することとなる。

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