鉄道の信号制御システム・保安装置であるATS、ATC、ATOの違いとは何か。それぞれの仕組みと主な特徴(メリット・デメリット等)について比較する。
正確に言うと単なる保安装置と信号システムとの連動型で分けられるが、日本国内のすべての鉄道ではこれら3つのうちのいずれかを装備している。
法律である普通鉄道構造規則第159条は「鉄道には、自動列車停止装置を設けなければならない。…」という記載があり、これらの信号システム(保安装置)を付けなければならない。
比較表:ATS/ATC/ATOの違い
名称 | ハイテク度 | 詳細な内容 |
---|---|---|
ATS | ★★ | 自動列車停止装置。停止(赤信号)を現示する信号機の手前の位置に列車が差し迫った場合に、運転席の警報音のベルを鳴り、運転士が確認ボタンを押さないと自動的にブレーキがかかって列車が停止する機能。 |
ATC | ★★★★ | 自動列車制御装置。信号電流をレールに流して列車の車上装置が連続的にこれを受信する車内信号システム。信号が示す速度を列車が超過した場合は自動的にブレーキを作動させて制限速度以下に減速する機能がある。 |
ATO | ★★★★★ | 自動列車運転装置。運転士はただ列車の発車ボタンを押すだけで力行・惰行・減速・定位置停止ができる自動運転のこと。運転士は操縦をしない。 |
これら3つが信号制御・保安装置の種類である。
ハイテク度は下に下がるほど上がる。大都市部のような乗客数が多いことで高密度運転を行う路線では、より高度な機能が備わったATCやATOを使用。
郊外を走る区間が長い路線等ではATSが主流。
ATSは信号手前のATS確認や速度照査以外は運転士による操作が優先される。人間による動作に頼ったシステム。
対するATCとATOは制限速度を超過すると自動的にブレーキがかかり、機械による支援が豊富なのが特徴。
ATS/ATC/ATOの開発・製作メーカー
・日本信号|ATSが主流。一部ATC(主にJR東日本)あり。
・京三製作所|ATC(私鉄・地下鉄)とATOが主流。
ATS(自動列車停止装置)
正式名称は「自動列車停止装置」。Automatic Train Stopの略。
古くからある保安装置で、線路の脇にある信号機が停止(赤信号)を示す場合に、その手前に列車が差し掛かった時には運転士に停止信号であることを警告するベルが鳴る。
運転士はこの警告音が鳴ったら直ちに確認ボタンを押す必要がある。
5秒以内に押されなかった場合、ATSは今度は列車に非常ブレーキをかけて自動的にさせる。
運転士が正しく行動しなかった場合でも自動的に赤信号で列車が停止する仕組みがATS。
赤信号を運転士が見落として通過したことでその前方にいる列車に衝突するといった事故が以前からあったことで、これを防ぐための装置として登場したのがATS。
近年は警戒(黄・黄)、注意(黄)、減速(黄・青)などの制限速度を指定した信号機の指示に合わせて自動的に減速させる装置も広く普及している。列車が信号現示の制限速度を超えて走行している場合には制限速度以下になるまでブレーキを作動させる仕組み。
「ATS-P」などが代表的。特に制限速度がかかるカーブの手前などに速度照査が行われることが多い。
きっかけとなったのが2005年の尼崎の福知山線脱線事故。これにより、曲線や勾配など線路の条件に応じて速度を照査する保安装置を搭載することが義務化された。
ATSの導入実績
ATSは全国の大半の鉄道路線で使用されている。日本中のJR・私鉄・第三セクターが導入実績といえる。
ATSではない路線はATCかATOということになるが、これらはいずれもATSに比べて高コストになる。
ATSは線路脇の信号機によって一定の間隔ごとに警告音の発動や速度照査をおこなうだけだが、ATC・ATOは連続的に信号の送受信が必要になる。
大都市部の高密度運転を行う路線などに限定されていて、郊外や地方は完全にATSが主流。
ATC(自動列車制御装置)
正式名称は「自動列車制御装置」。Automatic Train Controlの略。
信号電流をレールに流して列車の車上装置が連続的にこれを受信する車内信号システム。ATSとは違って線路脇の信号機は使用せず、完全に車内信号を用いる。
運転台の速度計上に常に制限速度が表示され、列車はその速度以下で走ることになる。制限速度を超過すると自動的にブレーキが作動して減速する。
ATSは運転士の操作によっては制限速度を超過することができるものの、ATCはそれに関係なく制限速度以下で走る仕組みが確保されている。
人間の操作よりも機械の命令の方が優先されるシステム上、ヒューマンエラーが起きにくいところが特徴。
ATCの導入実績
地域 | 路線名 |
---|---|
関東地区 | JR東日本(山手線、京浜東北線、根岸線、埼京線、常磐緩行線) 東京メトロ全線 都営地下鉄(新宿線、三田線、大江戸線) 横浜市営地下鉄全線 京王電鉄全線 東急電鉄全線 東武東上線 つくばエクスプレス 埼玉高速鉄道線 |
東海地区 | 名古屋市営地下鉄(東山線、桜通線、名城線・名港線) |
近畿地区 | 大阪メトロ(長堀鶴見緑地線、千日前線、今里筋線) 京都市営地下鉄 神戸市営地下鉄・北神急行電鉄 |
九州地区 | 福岡市地下鉄 |
その他 | 札幌市営地下鉄 仙台市営地下鉄 |
ATCは大都市部の一部のJR・私鉄、大半の地下鉄にて導入されている。
高密度運転が実施されている主要路線、トンネル内のために信号機が見えにくい地下鉄で積極的に取り入れられている。
JR・私鉄で具体的に言うと、東急電鉄、京王電鉄、東武東上線、JR山手線、京浜東北線、常磐緩行線にてATCを導入。
一方で導入コストが割高なこともあって、大半のJR・私鉄各線では取り入れられていない。
ATO(自動列車運転装置)
正式名称は「自動列車運転装置」。Automatic Train Operationの略。
運転士は発車ボタンを押すのみで次の停車駅までの一連の運転操作を自動で行うシステム。
力行・惰行・減速・定位置停止は運転士がマスコンハンドルを操作しない限りは100%自動で行われる。
ATO運転を行う路線では、運転士は行うのは発車ボタンを押すだけ。発車ボタンは2個一組で配置され、2個同時に押さないと停車中の駅を発車出来ない仕組みになっている。
車掌が乗務しないワンマン運転ではドアの開け閉めを運転士が行うものの、列車の操縦は行わない。
安全確認のために運転士が乗務するだけと考えてよい。
信号制御はATCと同じ。ATCに自動運転の機能が搭載されたのがATOである。
運転士が手動で操作する場合でもATCが使用されるため、制限速度を超過しての運転は不可能。
同じように人間の操作よりも機械の命令の方が優先されるシステム上、ヒューマンエラーが起きにくいところが特徴。
ATOの導入実績
地域 | 路線名 |
---|---|
関東地区 | 東京メトロ(丸ノ内線、千代田線、有楽町線、南北線、副都心線) 都営地下鉄(三田線、大江戸線) 横浜市営地下鉄全線 つくばエクスプレス 埼玉高速鉄道線 |
東海地区 | 名古屋市営地下鉄(東山線、桜通線、名城線・名港線) |
近畿地区 | 大阪メトロ(長堀鶴見緑地線、千日前線) 神戸市営地下鉄・北神急行電鉄 |
九州地区 | 福岡市地下鉄 |
その他 | 札幌市営地下鉄 仙台市営地下鉄 |
ATOは大都市部の一部の私鉄、地下鉄にて導入されている。
ワンマン運転を行う路線が基本。つくばエクスプレス、東京メトロ、都営地下鉄の一部
JR・私鉄で具体的に言うと、東急電鉄、京王電鉄、東武東上線、JR山手線、京浜東北線、常磐緩行線にてATCを導入。
一方で導入コストが割高なこともあって、大半のJR・私鉄各線では取り入れられていない。