ミニ新幹線の「仕組み」とは!? フル規格との違いはここ!

ミニ新幹線

ミニ新幹線とは、フル規格の既存の新幹線を走行する一方、新規に開業する区間は既存の在来線へ直通運転する方式の運転系統の仕組みである。新幹線と在来線が相互乗り入れを行うことから「新在直通」とも呼ばれる。

国内では山形新幹線と秋田新幹線がこのミニ新幹線の事例に該当する。いずれもフル規格は東北新幹線を走り、単独区間は前者が奥羽本線、後者が田沢湖線を走る。

ミニ新幹線とフル新幹線には歴然とした違いがみられる。

メリットは建設費を大幅に抑えることができる点、デメリットは在来線の高速化が困難なことで所要時間が長くなる点(在来線特急と同じ)である。


ミニ新幹線とフル規格の新幹線の違い

ミニ新幹線とフル新幹線の仕組み上の違い
比較項目 ミニ新幹線 フル新幹線
運転系統 新幹線と在来線の相互直通運転。新規開業区間は新たに新幹線を建設せず在来線へ乗り入れて対応。 全区間フル規格の新幹線
速度 フル規格区間:240km/h以上
在来線区間:130km/h以下
原則240km/h以上
建設費 安い
在来線の狭軌→標準軌への改軌工事のコスト
高い
新たに高規格の新幹線をイチから建設するコスト
工期 短い(2,3年)
在来線を改良するだけのため
長い(10~30年)
用地取得からスタートするため
所要時間 新規開業区間:在来線特急と同じ 新幹線と同じ
向いている路線 地方都市間輸送 大都市間輸送

フル規格の新幹線とミニ新幹線を比較すると、上記のような違いが出てくる。

ミニ新幹線は「低コスト低規格」という傾向がある。在来線の特急列車の利便性向上のために、既存の新幹線への乗り入れに対応させたものという見方もできなくはない。

運転系統

事例①:秋田新幹線

東京~盛岡=フル規格の新幹線、高架上で踏切ゼロ(東北新幹線区間)
盛岡~秋田=在来線、急カーブ・踏切あり(田沢湖線・奥羽本線区間)

事例②:山形新幹線

東京~福島=フル規格の新幹線、高架上で踏切ゼロ(東北新幹線区間)

福島~新庄=在来線、急カーブ・踏切あり(奥羽本線区間)

フル新幹線の場合は全区間において専用の軌道を走る。すべて高架上になっているのが基本。地上を走ることがなく、踏切も一切ない。

ミニ新幹線も既存区間ではこのようなフル新幹線の線路を走行する一方、新規開業する区間は在来線を走る。

運転系統を簡単に言うと、新幹線と在来線の相互直通運転である。

事例で言うと、山形新幹線は福島~新庄間は奥羽本線を走り、秋田新幹線は盛岡~秋田間で田沢湖線・奥羽本線を走る。

車両は新幹線型のものだが、在来線の部分にも乗り入れることで、ふつうの通勤電車と同じ線路を走る姿が見られる。

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速度

運転速度には大きな違いがある。事例は以下がある。

事例①:秋田新幹線

東京~盛岡=320km/h(東北新幹線区間)
盛岡~秋田=130km/h(田沢湖線・奥羽本線区間)

事例②:山形新幹線

東京~福島=275km/h(東北新幹線区間)

福島~新庄=130km/h(奥羽本線区間)

高速鉄道という性質から、フル新幹線は減速として時速200キロメートル以上で走ることが求められている。今の国内のフル規格の新幹線では時速300キロメートル以上を出す路線も増えてきている。

ミニ新幹線の場合は、フル規格路線の区間であれば同じく時速200キロメートル以上の高速運転を行っている。一方の在来線の区間では速度が遅い。

在来線では基本的に時速130キロメートルまでしか出すことができない。これは、最高速度で走行していて急停車したときに600m以内に停止することが推奨されていることに関係する。

地上を走る在来線では異常が生じる危険性が高いため、すぐに止まれるスピードで走らなければならない。これによって、フル規格の新幹線のような高速化ができない。

<参照>

建設費

建設費に関しては在来線を活用するミニ新幹線の方が安いのは紛れもない事実。

既存の在来線のレール幅を狭軌(1,067mm)から標準軌(1,435mm)へ改軌する工事を行えばミニ新幹線の運転が可能。

線路の改軌とはいっても、その距離が長ければコストが高くなるのは確かだが、それでもフル規格の新幹線を比較すれば安上がり。

フル規格の新幹線を新たに建設するとなると、用地買収から高架の建設、架線や信号設備の設置が必要になる。

建設費は最低でも数百億円はかかる。少しでも需要面に不安材料が残れば着工できない。

長崎新幹線の新鳥栖~武雄温泉間の計画でも、ミニ新幹線、フル規格それぞれの建設費の試算は下記のようになっている。

長崎新幹線(新鳥栖~武雄温泉間)の整備方式別の建設費試算

  • ミニ新幹線(単線並列)の場合:約1,700億円
  • ミニ新幹線(複線三線軌)の場合:約2,600億円
  • フル規格新幹線の場合:約6,000億円

ミニ新幹線はフル規格で建設した場合の半額以下であるのがわかる。

費用対効果

ただし、費用対効果に関しては、建設費が安い「ミニ新幹線」が優勢であるわけではない。国土交通省によれば、建設費やランニングコストを考えても、新幹線規格(フル規格)の方が費用対効果が大きいとの事。

下記はミニ新幹線、フル規格の費用対効果を比較したもの。長崎新幹線の計画案を例にする。

整備方式 フリーゲージトレイン (FGT) ミニ新幹線 フル規格
単線並列 複線三線軌
駅の設定 新鳥栖-佐賀-肥前山口 -武雄温泉 新鳥栖-佐賀-肥前山口-武雄温泉 新鳥栖-佐賀市附近(佐賀) -武雄温泉
整備延長 約50㎞ (アプローチ線等が整備の対象) 約50km 約51km
追加費用 約500億円 約1,400億円 約5,300億円
開業見込み / 想定工期 H39年度 / 約9年 H44年度 / 約10年 H48年度 / 約14年 H46年度 / 約12年
山陽新幹線への乗り入れ なし あり あり あり
所要時間 長崎・博多間 (対面乗換開業時 約1時間22分) 約1時間20分(△約2分) 約1時間20分(△約2分) 約1時間14分(△約8分) 約51分(△約31分)
長崎・新大阪間 (対面乗換開業時 約4時間00分) 約3時間53分(△約7分) 約3時間44分(△約16分) 約3時間38分(△約22分) 約3時間15分(△約45分)
佐賀・博多間 (対面乗換開業時 約35分) 約33分(△約2分) 約33分(△約2分) 約30分(△約5分) 約20分(△約15分)
佐賀・新大阪間 (対面乗換開業時 約3時間13分) 約3時間6分(△約7分) 約2時間57分(△約16分) 約2時間54分(△約19分) 約2時間44分(△約29分)
投資効果 3.1 2.6 3.3
収支改善効果 △約20億円 約9億円 約2億円 約88億円

※出典:国土交通省鉄道局「九州新幹線(西九州ルート)の整備のあり方について (比較検討結果)」、2018年3月30日

費用対効果は利用者側のメリット(便益)や、収益をコストで割り、「1」を上回ると事業実施、つまり実際の建設が合理的と判断される目安となる。

国土交通省による試算では、効果が見込まれる関西方面への乗り入れを前提とし、ミニ新幹線は2.6~3.1、フル規格は3.3との事。

工期

事業の着工から開業までにかかる工期もミニ新幹線に軍配が上がる。

在来線を活用できることで、工期とは改軌工事がメインになる。これにかかる期間は2,3年程度に収まりやすい。在来線側の普通列車の車両交換を考慮しても、5年程度に収まる。

フル規格の新幹線はそんな短期間で建設することはできない。事業化が決まっても、それから完成するまでには20~30年程度かかるのが一般的。着工からでも15~20年ほどはかかる。

例外として東海道新幹線は事業家および着工から5年で開業した。ただし、この当時は日本が高度経済成長期に入るか入らないかの時代であり、今と違って用地買収が難航する点や厳しい基準がなかった。

さらに国を挙げて突貫工事で建設を行ったことも影響している。今の時代にふつうにフル規格の新幹線を建設するとしたらこのような短期間で完成させるのは不可能。

その点でミニ新幹線は工期が数年と短いため、早期開業を目指せるという長所がある。

所要時間

フル新幹線は全線において従来の在来線特急と比べて大幅に高速化ができるため、同一区間での所要時間はかなり短くなる。

ミニ新幹線の場合は、在来線区間での高速化ができないのが難点。所要時間の面でも、時間短縮化が実現できるのは乗り入れる新幹線区間に過ぎない。

在来線を活用するところでは、同一区間での所要時間は特急列車とまったく同じになる。

JRと航空機との競合が予想される地域では、ミニ新幹線はJRによって不利に働きやすい。あくまでも長所は乗り換えなしの利便性のみになってしまう。

参照:ミニ新幹線はやはり失敗だったのか!? 山形・秋田新幹線を分析

ミニ新幹線が向いている例

ミニ新幹線が向いているのは地方都市間輸送である。

整備新幹線のようなフル規格の路線では利用者数が少なすぎて採算が合わない一方で、在来線特急ではある程度利用者数がいて黒字経営は一応達成できているような区間に最適。

大都市とは政令指定都市クラスのメガシティのことを指す。新幹線を新しく建設するということは、それに見合った需要がなければならない。

単なる地域の活性化のためという点だけを重視すると、不採算で赤字に陥ってしまうことになりかねない。

ミニ新幹線であれば、既存の在来線の線路を改軌するコストはかかるものの、その費用は膨大な金額というほどではない。

既存の新幹線のあるところではフル規格の新幹線へ乗り入れることで、一部区間に限られるとしながらも高速化はできる。

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