なぜ首都圏のJR東日本に「新快速」がないのか? 理由を考察

新快速

JR東日本に関西で有名な「新快速」という種別の電車が存在しない理由とは何か。首都圏ではあまり速達性が重視されていない訳とはどんなものか。関東ならではの鉄道事情にについて今回は取り上げる。

JR西日本の関西の東海道・山陽本線を走る新快速は、最高時速130キロメートルというスピードを出すことや、表定速度が80km/hを超えるという驚異の速達性を持っていることで、鉄道に詳しい人であればだれもが知っているだろう。

同じく、名古屋周辺の中京圏においても新快速という列車種別が存在し、こちらもまた、最高時速は120キロメートルではあるが、直線が多くて停車駅がかなり少ないという特徴から、表定速度は80km/hを超える。

いずれの地域でも、主要な路線では速達性を重視し、よりスピードを出して停車駅を少なくした列車を運行している。

しかし、首都圏のJR東日本においては、新快速という種別の電車は一切存在しない。「特別快速」という名称の列車は存在するが、表定速度は関西や中京ほどは速くはない。関東の場合は全体的に停車駅も多いのも気になるところであろう。


首都圏(東京近郊)に新快速がない理由

首都圏(JR東日本) 京阪神(JR西日本)
優先事項 輸送力強化(混雑緩和) 収益の確保
私鉄各社との競争 ほぼ独占 並行私鉄多数
線路容量 朝夕は限界 余裕あり
収益性 ドル箱 私鉄と分け合う
基本方針 輸送力重視 速達性重視

東京近郊の首都圏をカバーするJR東日本と、京阪神地区をカバーするJR西日本では、在来線の電車へ対する方針は全く別物。

中京圏(名古屋地区)を走るJR東海に関しても、基本はJR西日本とほぼ同じ。

私鉄がJR線に並行して走っているかどうか、通勤ラッシュ時の混雑がどれくらい激しいかが「新快速」の有無に影響している。

もっとも、JR東日本の路線には関西や中京地区のような「新快速」ならではの高速運転ができるところが少ない。

>>【路線別】在来線の最高速度の一覧! JR・私鉄を調査

JR西日本は130km/h、JR東海は120km/hでの運転を実施している。しかも、直線が多いためにそれを出せる区間が豊富。JR東日本の路線はカーブが多く、減速する部分が多いのも事実。

JR東日本(首都圏)の事情

東京近郊のJR東日本の事情

  • 朝夕のラッシュの激しい混雑|とにかく輸送力確保が第一
  • 並行私鉄との競争の薄さ|速達性でシェア拡大する必要性がない
  • 線路容量が限界|新快速などの優等列車を走らせる余裕がない

JR東日本という鉄道会社の考え方の面もあるが、通過駅の多い「新快速」を運転するのが利用実態に合わないのも確か。

東京近郊という地域的な背景が大きい。

激しい混雑

東京の朝ラッシュのピーク

主な路線の混雑率

いずれも「新快速」を導入してほしいという声がある路線だが、混雑率がかなり高い。

参照:【JR東日本編】路線ごとの混雑率ランキング! 理由も調査

JR東日本が管轄する首都圏は日本一の人口を誇る東京近郊に路線網を持つ。

通勤ラッシュの朝夕となれば、どこの路線も例外なく「満員電車」になる。

都心に近い駅に近づくほど、駅ホーム上では全員が乗り切れない積み残しが発生することも決して珍しくはない。

列車の運行本数はそれでも限界まで走らせている。線路容量の上限まで走らせ、朝はピークで2、3分間隔で行き来している。

それでも、混雑は常に激しい状態になっている。ドア付近では乗客同士が押し合うほどのレベル。

何よりも電車の本数をとにかく最大限まで増やすことが求められている。

速達性のために「新快速」を導入するような優先順位は低い。

並行私鉄がほとんどない

路線名(JR東日本) 該当区間 並行私鉄 勝者
東海道線 品川駅~横浜駅 京急本線 JR(利便性、所要時間)
湘南新宿ライン 池袋~横浜 東急東横線、東京メトロ副都心線 JR(利便性、所要時間)
中央線 新宿~八王子駅 京王線 JR(利便性、所要時間)
総武線 東京~成田空港 京成本線 JR(利便性、所要時間)
常磐線 上野~土浦 つくばエクスプレス 引き分け
※独占:宇都宮線、高崎線、埼京線、京葉線

JR東日本の路線網を見ると、JR線に並行して走る私鉄がある路線がほとんどない。

あるにしても、実際に沿線の鉄道利用者を分け合う構図になるほど近接している区間は少ない。

都心部のターミナル駅がまったく違うところもあり、鉄道事業者として収益性に影響が出るようなレベルではない。

しかも、並行私鉄があってもJR線・私鉄のいずれも通勤ラッシュ時の混雑が飽和状態になっている。

市場にて競合して乗客を確保したいどころか、混雑緩和のため少しでも分け与えたいというのが本音でもある。

「新快速」を走らせてまで私鉄と速達性で競争する必要性はない。

線路容量が限界

線路容量が限界の首都圏の鉄道網

そもそも、「新快速」のような通過駅の多い列車を走らせるためには、途中駅にて何度も前を走る各駅停車などを追い抜かす必要がある。

首都圏のように本数が多い路線では、それができるところが少ない。待避設備がある駅にて追い抜かすことになるが、各駅停車そのものが多くは知っていることで、追い抜けるところが限られる。

無理矢理走らせることができたとしても、結局は前の電車に追いついてしまって徐行運転となるのが想像できる。

さらに、途中の相対的に小さな駅でさえも、首都圏では膨大な数の乗降客数を誇る。

新快速のような停車しない列車を走らせると、後続の各駅停車に乗客が殺到して、ただでさえひどい混雑がますます激化する原因になりかねない。

同じ線路を走る電車の停車駅を統一かさせてできるだけ運転間隔を狭めることで、混雑が少しでも和らぐ。

「新快速」の導入はそれに反することになるため、首都圏のJR東日本での導入はこの面から不可能と言わざるを得ない。

JR西日本(京阪神地区)の事情

京阪神地区のJR西日本の事情

  • 混雑は緩やか|混雑率は150%未満
  • 並行私鉄との競争|関西は「私鉄王国」というほど競争あり
  • 線路容量に余裕あり|新快速などの優等列車を走らせても問題ない

より所要時間を短縮させて速達性を高めるために、通過駅の多い「新快速」を運転している。

大阪都市圏をはじめとする関西の人口規模が東京近郊よりも少ないのも影響。

緩やかな混雑

大阪駅の朝ラッシュのピーク

主な路線の混雑率

首都圏のような150%以上の数値はない。

参照:【関西編】大阪都市圏の鉄道路線の混雑率をランキング化!

「新快速」こそはJR神戸線・京都線系統しか走らせていないが、そもそもJR西日本の路線の混雑率が低い。

JR西日本が管轄する路線網の最混雑路線は学研都市線(片町線)だが、これでも120%にとどまる。

通勤ラッシュの朝夕となれば、どこの路線も例外なく「満員電車」になるのは確かだが、その満員の規模が東京とが全く異なる。

列車の運行本数も限界まで走らせているわけではない。朝はピークでも5~10分くらいの間隔が空くところは結構ある。

鉄道会社にとっては、取り込める乗客には限りがあるため、少しでもJR西日本を利用してもらえるように速達性を重視する根拠ができている。

その結果、速達性のために「新快速」を京阪神地区を代表する神戸線・京都線系統に導入している。

宿敵の並行私鉄

路線名(JR西日本) 該当区間 並行私鉄 勝者
神戸線 大阪~姫路 阪急神戸線、阪神本線、山陽電鉄線 JR(所要時間)
京都線 大阪~京都 阪急京都線、京阪本線 JR(所要時間)
宝塚線 大阪~宝塚 阪急宝塚線、阪急伊丹線 JR(所要時間)
阪和線 全線 南海本線 引き分け
大和路線、桜井線 全線 近鉄奈良線、近鉄大阪線 近鉄(利便性、所要時間)
奈良線 全線 近鉄京都線 近鉄(利便性、所要時間)
※独占:学研都市線、琵琶湖線

JR西日本の路線網を見ると、主要路線はほとんど並行私鉄との競合関係にある。

完全に沿線の鉄道利用者を分け合う構図になるほど近接している区間がかなり多い。

都心部のターミナル駅も同じまたは近いところがほとんど。鉄道事業者として収益性に影響が出るレベル。

よりJR線に鉄道利用者が流れるように、少しでも速達性を重視する合理的な理由がある。

混雑緩和ではなく、逆に混雑激化してほしいという願いもあるほど。

「新快速」を走らせてまで私鉄と速達性で競争する必要性があるからこそ、首都圏とは違って運転に踏み切っているのが理解できる。

線路容量に余裕

線路容量に余裕があるJR西日本

「新快速」のような通過駅の多い列車を走らせても、途中駅にて何度も前を走る各駅停車などを追い抜かすことができるシステムもある。

中でも神戸線・京都線・琵琶湖線は西明石駅~草津駅の区間は「複々線」で、同一方向でも各停と優等列車がそれぞれ別々の線路を走行できる。

複線区間だと待避設備がある駅にて追い抜かすことになるが、複々線はその必要性が薄い。

さらに、複線の部分でも各駅停車の本数はそう多くはないため、待避設備のある駅にて追い抜かせばよいという事情もある。

新快速が停車しない駅の乗降客数もそれほど多くはなく、首都圏のように各停の混雑が激化するような事態にはなっていない。

線路容量の観点からも「新快速」の導入が可能な構図になっている。

なお、JR西日本の路線は京都線・神戸線・琵琶湖線以外でも、阪和線・大和路線・学研都市線でも「快速」電車が終日に渡って多数運転されている。

いずれの路線でも東京近郊のJR東日本と比べるとかなり速達性を重視している。

まとめ:私鉄との競争が関東はない!

新快速には非現実的な首都圏

関西や中京の場合は、並行する私鉄が走っている。JR線の近くには競合してつの線路があり、駅周辺の人口が多くても、利用者が2社に分かれてしまい、サービスの質を下げてしまうと乗客が減ってしまう可能性があるという事情を持っている。

一方の首都圏の場合、JR線の近くには私鉄が並行して走っていない場合が多い。沿線人口をJR線1本だけでカバーしているケースが少なくない。

特に、関東北部と都心を結ぶ東北本線や高崎線、埼京線などにおいては、競合私鉄が存在しない。ほとんど独占できている環境にある。

また、たとえ並行する私鉄の線路があったとしても、私鉄の場合はカーブが多くて線形が悪い場合が多い。

たとえば、総武線と並行する京成線の線形は悪い。カーブはかなり多く、最高速度がほとんど出せないという性質を持っている。

また、関東の場合は沿線人口が多いことから、列車の運行本数も多く、ダイヤが過密している場合が多い。過密ダイヤであることによって、線路容量の面で優等列車を設定できる余裕がない。

こうしたことから、JR東日本の場合は速達性を重視することよりも、運行本数の拡大や途中駅の利便性の強化の方に重点を置いているのである。これが、速達性を追求している関西や中京を走るJR線との違いではないだろうか。

最終結論

首都圏 関西、中京
並行する私鉄が少ない 競合私鉄が多い
列車本数が多い 列車本数が少ない
沿線人口が多い 沿線人口が少ない
ダイヤ過密 ダイヤに余裕あり

JR東日本の首都圏とJR西日本の京阪神地区の違いをまとめるなら、このようになる。

社会的な背景が「新快速」の有無と考えてよい。


広告

おすすめ記事